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羊のハチノス(胃袋)でオジリーチャレンジ。

とある町のとある商店の細い階段を登るとそのインド食材店はある。
看板は小さいし日本語表記は少ない、店員も客もほとんどがインドやネパールの人、初見ではかなり入りにくい店だ。

が、入ってしまえば楽しいもんだ。
いつも「何作るの?」って聞いてくれるし、ギーはこっちの方が美味しいね!とか、ビリヤニならこのマサラだね!美味しいよ!とか
人情味がある、優しいネ。

・あるインド食材店にて

この店は日本語の表記が少ない、英語があればまだしも全く読めない物も多い。
中身が見える包装ならある程度は分かるけど、そうじゃない時は店員さんに聞くしか無い。
だが、店員さんも忙しいし、日本語が通じる店員さんが1人しかいないので、賑わっているときは彼の手が空くのを待つこともしばしば。

この日もそういう日で、先客の会計が終わるまで色々と見て回っていた。
干し豆のコーナーにポツンと小さな冷凍庫がある事に気づき中を見ると、いつものマトン肉の袋に白いのが入っている。

むむ??手に取って裏を見てみると羊ハチノスと書いてある。
ハチノス、つまりは第二胃!!
イタリアの家庭料理、トリッパは牛のハチノスで作るし、ホルモン焼きでもハチノスは定番。
もちろん大好きだ!!が、羊のハチノスははじめましてだ。

このメーカーのHPの商品欄面白いよ。

どうやって食べるかは正直あんま分からなかったけど、1袋(1キロ入りだ)買った。
この店で売ってると言うことは何かしらスパイス料理系で食べ方があるだろうし、もし無くても普通にトリッパ煮込みにしちゃおうと思ってね。

無計画で食材を買うというのは食品ロスという面から見ると危険だが、まぁ99%食べれる確証はあったのでね。
料理人で良かった。

ちなみにその日に一緒に買ったのは、骨抜きマトン肉1キロ、粒黒胡椒500g、カルダモンパウダー、ラルキラのバスマティライス、フェンネルシード。
チャリンコだとこれくらいが持てる限度。

・オジリーって?

こういう食材を買った時はTwitterで投げかけるのが定番。

そしたらインドにいるはずの友人から”オジリー”ってのがありますよ!!
ってコメントが来た。

オジリー??ってなんじゃ??と思って調べてみたが、そんなに情報が出てこない。
どうやらパキスタンあたりのマニアックなカレーのようだ。

食べれる店が少ない上に、日本語のレシピが出てこない。
マニアックな料理あるあるですね。

だから想像で作る。
口コミや写真、似た料理、これまでの経験などを頼りに想像上のオジリーをこさえる。

トマトは必須、トマトに合わせるならクミンやカルダモン、内臓の処理はフレンチを参考に、パクチーも合いそう、具材らしい具はハチノスだけ、ヨーグルトを少しいれてもよさそうだな、、、
ってね。

と言うわけで半空想上のオジリー作りはじめます。

・ハチノスの下茹で

ハチノスの処理はフレンチの本を参考に。
ただ、これは冷凍のブロック、サイズがバラバラなのでそこだけ注意。

まずは水から茹でる。
売ってる時点で最低限の処理は終わってるんだけど、美味しくするにはしっかりした処理が必須。

同時に香味野菜の用意をしてたので、生姜の皮やタマネギの皮も一緒に。

沸騰して5分くらい茹でたら水に晒す。
よく洗って、タワシで汚れた血管をゴシゴシ落とす。
血管や膜など剥がしていくと際限ないのでほどほどにね。

綺麗になったら更に洗って絞って鍋へ。
これが下茹で。
こっからは煮込んでいきます。

ちなみにこの状態のを食べるとゴムのような食感で、臭みも強烈。
動物園の中でタイヤを囓ってるみたいな?

・ハチノスを柔らかく甘く

いわゆる茹で戻し。ってやつ。
牛のハチノスより強烈な香りなので、スパイス系も気合いをいれてく。

香味野菜はあるもので、人参、タマネギ、ニンニクは定番。
あとはセロリ、葱、生姜なんかもいい。
パクチーの根っこなんかをいれるのもいいね。

スパイスはローリエ、クローブ、八角、ピパーチ。
無ければ胡椒やナツメグでもOK

こういう時クローブをタマネギに刺すのは定番、ノリで八角もピパーチも刺してみた。
後で取り出すのが楽っちゃねん。

鍋に香味野菜、塩小さじ1、黒胡椒、白ワインをいれて~

水を入れて炊いていく。
最初は強火で沸かして一気にアクを取り除き、弱火で3,4時間煮込む。

が、大変なので圧力鍋に頼りました。

一回沸かして5分ほど茹でて、放置。
ちょっと用事があって一時離脱。

用事ついでにセロリを買ったので投入、更に30分ほど圧力をかけて茹でる。

食感はあるけど硬くない、指のツメで切れるくらいになったらOK
圧力鍋なら30~40分、そのままなら3~4時間ってとこですね。

はいドーン!!
香味野菜と煮汁は別によけます。

ある程度冷めたら切っていく。少し縮むのを考慮して気持ち大きめ。
香味野菜は大分煮崩れてるけど、使えるのは野菜ペーストとして使うので取っとく。
タマネギからスパイスを引っこ抜いとく。

・オジリーのスパイスとベース

まずは粒のスパイスをいれて煎る。
クミン、フェンネル、マスタード、唐辛子、粗挽き黒胡椒、粗挽きピパーチ。
マスタードが跳ねるくらいまで煎ると良い香りが出ます。

我が家は俺以外は大きいスパイスが苦手なので、クローブ以上の大きさのはいれないようにしてる(唐辛子は取り出しやすい様に丸ごと)

そしたら粉スパイスをいれていく。
粒スパイスの右から時計回りに、クミン、クローブ、カルダモン、ターメリック、唐辛子、オールスパイス、ナツメグ、コリアンダー。だったかな~

クミンとコリアンダーが4,カルダモンとオールスパイスとターメリックが2,他が1って感じ。

・コラム:今日のスパイス使い分け

クミンやカルダモンはトマトの相性が抜群な爽やか酸味。
コリアンダーはカレーのベース。安定。
唐辛子と胡椒は辛味と旨味。
フェンネルとマスタードは弾ける刺激。
オールスパイスとクローブとピパーチは羊の臭みに合わせた甘く苦く重たい系。
ターメリックは色と爽やかさ、ナツメグは動物性脂肪を爽やかに。

みたいな感じ、種類が多けりゃ良いってもんじゃないけど、機能や効果はそれぞれだから合わせて使う。
それぞれの特徴を知ってれば代用や置き換えがしやすい。
(例えばクローブとピパーチと八角とアニスは似てる)

粉もしっかり煎って香りを出す。
煙がでるくらい煎るのがオススメ。マトンみたいにクセの強いのにはしっかりローストの苦味が合う。

んで油をいれて更にジュクジュクさせる。
この日はオリーブオイル、弱火でじっくり香りを移す。
なんだかんだ油を控えないのが美味しくするのには必要な事。

そしたら野菜をいれて炒める。
ニンニク、タマネギ、セロリをいれて弱火でじっくり。

少しだけ砂糖と塩をいれると水分が抜けるのが早いし美味い。

柔らかくなってきたらさっき取っておいた煮込んだ野菜をいれる。
形が残ってればザクザク刻んでいれる。
すぐに溶けるけど良い味になるし、もったいないじゃない?

んで炒まったらヨーグルトを少し、更に煮詰める。

でトマトペースト、たっぷりいれてしっかり煮詰める。
トマトを煮詰めるなら焦がすギリギリまで煮詰めるのが大事。
半分くらいになるまで煮詰める。

最近は瓶の二倍濃縮トマトペーストがお気に入り。
値段もお手頃だし、余っても数日は持つし、なにより既に煮詰められてるの優秀。

・仕上げていく~

さて、仕上げだ。
茹で戻しは1キロでやったけどオジリーにしたのは600gほど。
残りは煮汁と一緒に冷凍、そのうち違う料理にしよう。

かなりしっかり煮詰まった所に処理済みのハチノスをいれ馴染ませていく。
所々見える緑のはパクチーです。
仕上げにも乗せるけど、ちょっと余ったのでいれちゃった。

んで、ここにハチノスの煮汁をいれていく。
量は倍に薄めるほどだが、煮詰め具合にもよるので味を見ながら。
いれすぎると旨味が弱くなるし、さらさらになっちまうんでね。

更に10分ほど煮こみつつ、味を整えていく。
塩が基本だが、好みで砂糖やみりん、醤油等で味をつけてもいい。
仕上げにガラムマサラやハーブ類をいれるとフレッシュな香りがつく。
ズルいけど、日本人好みな味にするなら、仕上げにカレールーをひとかけらいれるのもアリっちゃアリ。

・完成!!

熱々に生パクチーをたっぷりで。
中々良い色のカレーだ。

お味は、う~ん辛くて香ばしくて酸っぱ美味い!!
トマトの酸味が中心にいて、それらと相乗的に美味くするクミンやマスタード、カルダモンがいい!!
セロリやパクチーも良い相性だね~

で、お目当てのハチノスは?
うん、柔らかい。けどちゃんと食感が残ってて、噛むとトロリと甘く旨いエキスがでてくる。
香りは最初に比べてかなり落ち着いた、ほんのり獣っぽさはあるけどイタリアンで食べる牛トリッパと遜色ない。
むしろ香りの種類的にスパイス系との相性がいいのは羊かも。
俺は好きだなぁ~麻辣な味付けも合いそうな感じ。

・この日の献立

オジリー
ナン(市販)
カボチャのバター煮
豆と茹で鶏のサラダ
モロヘイヤのスープ

カレーやビリヤニの時は豆のサラダにしがち、いなばのミックスビーンズ缶が便利。
カボチャはひとかけのバターと少しの水と薄口醤油で炊くシンプルなものだからか、和洋中にもインド料理にも合う。

ナンは市販の物を焼き直した。
トースターでサクッと温めるの旨し、そりゃ~インド料理やのとは別物だけど、家でこのクオリティが食えるなら大満足。

良い料理だった。残りのトリッパどうしよっかな~
とりあえず煮汁と一緒に冷凍したからなんかにしよう。
オススメあれば教えてくださいね。

・あえての情報不足もいいもんだ。

レシピの溢れているこの時代、あえて情報不足の状態で想像を頼りに料理するってのも面白いもんです。
普段はレシピ本やら料理動画ってのが便利だけどね。

たまには良いんだ。
エッセイや小説の一説でもいいし、なんか美味そうな絵から発想を得てもいい、食べた感じをなんとなく再現してみてもいい、そうする事で新しい味は生まれるかもしれないし、そうやって家庭の味ができるのかもしれない。

ま、今日の場合はマニアックな料理だったからってのもあるけどね。

普段はしないような食材や組み合わせをどうにか美味くしようってのを工夫するのも面白いよ。
余り物や冷蔵庫整理ってのも使い方次第。


久し振りによしもとばななさんのエッセイ集”ごはんのことばかり100話とちょっと”を読んだら作りたい物が増えた。
レシピの余白が広々してるのも良いですよね。フリーダム。

文章の力と読み手の想像力でお腹が減る。
そんな文章、好きだなぁ。
今日のばんごはん何にしようかなぁ、キャベツとひき肉でなんにしよう。


羊は羊でも文学的で音楽的で愛おしい羊の素敵なMVを。
仄かにクローブやジュニパーベリーみたい香りがする音楽だなぁ。



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