あなたのためを思って

#環境課CC プロジェクトマネージャー

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マガジン

  • 賭けよう、発狂するほどの喜びを

    #環境課CC 短編SS  祇園寺蘇芳(国分寺周防)と六枷霧黒(No.966)が送る、環境課の深部と秘密工作業務の一幕

  • あなたの畢生の物語

    VRC環境課/ド取の中編SS。 ド取のロナルド・ハンティントンは、強制介入のさなか、環境課のフローロへとある誘いを持ちかけた。 「私と一緒に来て下さいませんか?そうしてくだされば、私はこの組織に二度と危害を加えません」 その誘いに乗ったフローロの、その後の物語。

  • ハガネの小鹿が砕けぬように

    VRC環境課の中編SS。環境課員の能力平均化の材料確保のため、函館へ遠征を行った出来事。

最近の記事

賭けよう、発狂するほどの喜びを 下

3 『楽しみといえば、ちょっとした賭け事くらいのものでした』 視界記録が再生される。 虚ろな目つきの男、眠たげに手足を放り出したサイボーグ、鼻歌交じりで応対を行う中年の女性。 『いつまでたってもろくに稼げない仕事だったよ』 『そのうち金も無くなってしまいましたね。体を切り売りするのにも限界がありました』 腹部の切開痕を見せる男性。曖昧に返事をする調査1係の環境課員。 人物が切り替わり、注がれた水道水を震える指で口元へ運ぶ女性。『何もかも嫌になったのですが、それで、もう身

    • 賭けよう、発狂するほどの喜びを 上

      1 外に出ると、太陽が傾き、高層ビルの地平線をじりじりと焦がしていた。空の上の方では厚ぼったい雲の塊が横たわり、ただでさえ圧迫感のある街の空に蓋をしている。 環境課庁舎の裏手から車通りの少ない幅広の道に向かうと、そこで自動運転の車両がすう、とドアを開いて出迎えた。 「六枷さん、いりますか?ゴマ団子」 振り返る。黒髪がふわりと広がり、頭のアンテナが鈍くきらめく。深海の瞳の女、祇園寺蘇芳が、香ばしい揚げ菓子を爪楊枝の先で揺らす。 ――六枷霧黒は少しだけ首を動かし、柔らかく微笑

      • ブラインドカーボンコピー

        1 「皐月さんは……非科学的なものというか、ずいぶんオカルトがお好きなんですね」 フェリックスは後ろから近づく足音に振り返りながら、折りたたみ式の携帯灰皿へと吸いかけの紙巻きタバコを押し付けた。革がコンクリートを叩くまろやかな足音。月島皐月がフェリックスの隣まで歩み寄り、ベランダの柵に指先をかける。 「ああ。オカルトは好きだ。UFOも幽霊も信じている。そしてそれらは全て科学で解明できると思っているよ」彼女はそう嘯く。「フェリックス、君はどうだ」 風が弱々しく吹き付けて、月島

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          インパクトプリンター

        賭けよう、発狂するほどの喜びを 下

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        • 賭けよう、発狂するほどの喜びを
          2本
        • あなたの畢生の物語
          4本
        • ハガネの小鹿が砕けぬように
          6本

        記事

          あなたの畢生の物語(4)

          7. 朝のローカルニュースは、当然相模襲撃の件で持ちきりであった。第五元素の一派による内部テロ、その解決、原因特定を素早く行い対策をとったアルファマリア、近隣ブロックの被害を食い止め、相模での負傷者もテロリスト以外にはごく少数。 元々第五元素は自助を目的とした複数の儀礼派の寄り集まりである。このような事態はまれにあり、また予期できることであった。それを無理に抑圧することはなかったが、アルファマリアの静かで切実な物言いは内外で反響を呼んでいる。もっと厳しく事態の解決に当たるべ

          あなたの畢生の物語(4)

          あなたの畢生の物語(3)

          4. 「おはよう「ござい「まあす!」 何も分からなくなった。と思った次の瞬間には、破滅的な目覚めの挨拶が聞こえてきた。 「さあ!「ゆっくりと目を開けて」聞き馴染みたくはなかったが、聞き馴染んでしまったそのバリトン。多重にささやくなめらかな口調。見なくても分かる。というか、見たくない。目覚めて最初に目にするものが、ロナルド・ハンティントンの恐ろしい顔面であっていいはずがない。 フローロ・ケローロは、なので、ちょっと右に顔を傾けてから瞳を開いた。結果的にはそれで良かったのだろう

          あなたの畢生の物語(3)

          あなたの畢生の物語(2)

          2. 道すがら、NLSF――人命救助を目的としたブロック間医療支援団体――の施設の奥へと歩む白く無機質なその道中、しかしその肩書は正しいものではない。とアルファマリアは話していた。 「取りますとも……ピルグリムの援助を受けていても…それだけでは人助けはできません…」取る。例えばそれは金銭に限ることもなく、しかし経済的な価値のあるものならばなんでも。ヒトもモノも。そして第五に勤務する。可能な限り平穏な生活は保証するし、本人の意志は確認するが、それでも無償での施しを常に行うわけ

          あなたの畢生の物語(2)

          あなたの畢生の物語(1)

          0. セダンが走る。今時めずらしいガソリン車。右ハンドルで、その座席はハンドルを握ったロナルド・ハンティントンにはかなり小さすぎるように見えた。見ようによれば滑稽で、こんな時に――リンリンがこれを見たら笑ったかも知れない。だとか、この車は課長の趣味からするとどんな具合なのだろう。だとか、残した課員の顔が次々に浮かび、フローロ・ケローロは瞼を押し上げて夜道だけをじっと見た。 「相模に着いたら起こしますので「それまでは眠っていても構いませんよ」 「あなたの前で眠れるほど気を抜い

          あなたの畢生の物語(1)

          幕間 チタン棺の秘密

          1 ナタリア・ククーシュカは音を立てずにイントレへ着地する。ほど近くには煌々と眼下を照らす高出力ライトが肩を並べていて、たとえ何かの拍子にスタッフが視線を上げようと、情報係の斥候など見えるはずもない。 かなりの高さから飛び降りたのに静かに動けたのは、ナタリアの身体制御能力の賜物……だけではない。彼女もそれを分かっていて、そっと“椛重工”の抗重力シューズを脱ぎ、鞄に詰めた戦闘用義体のつま先と差し替える。 「ナタリアさん、このまま直進してください」 「ああ」 ……円城寺椛を奪っ

          幕間 チタン棺の秘密

          幕間 ドス黒いダイヤモンド

          1 環境課新庁舎、第3会議室。そこは今しがた急いで片付けられたようで、壁には実験資料の印刷物やデバイスがいくら残っており、隅の方にはマルクトエディスが2挺立てかけられている。 「まずは、皆さんに協力していただく“開闢調査”がどういったものなのか、概要をお話いたしましょう」 フェリックスは指を鳴らして部屋の道具をひと息に積み上げ、布張りの椅子をカーペットに滑らせる。やや嬉しそうな顔のネロニカ、ヘラヘラしつつも眉根を寄せたグレン、キョロキョロしているアートマが並んで座り、“複

          幕間 ドス黒いダイヤモンド

          幕間 抜け目なし指数

          「集まってもらってありがとう」皇純香は対策室の奥部より、面々を見渡す。 「各作戦で多忙なところだろうが、今後の環境課内における人事と指揮系統について、少し説明しておきたいことがある」 ホログラムの地図、各種デバイス、液晶ボードに囲まれた部屋の中、集っているのは“D案件”……いわゆるド取への対応案件に関わる環境課員たちだ。中には課長の目前であっても情報整理の業務を片手間に続けながら、外部ブロックに連絡しながらの聴講を行う課員すらちらほらと目に入る。……しかし、咎められるような

          幕間 抜け目なし指数

          幕間 ありふれた手段

          *** 「ああやっと終わった。俺もう帰って寝ていい?」使い古しのオフィスチェアに座ったガメザが、子供のようにくるくる回転して、翠の髪を揺らせている。 すらりとした体の至るところには包帯が巻かれ、肌の見える位置には黒やら黄色の大小様々な痣が見て取れた。 そのガメザの隣でクスクスと笑っている少女が首を振る。「ダメですよ~ガメザ先輩」 薄い髪色のツインテール、けだるげな目をした少女、瑠璃川の肌にも、大振りなガーゼが2つほど貼ってある。接着面が障るのか、ときおり小振りな爪先でかりか

          幕間 ありふれた手段

          インフォメーションの花束を

          電脳のことについて知らない課員はまだまだ多い。電脳化されていても、それでも知らないという課員だってまだ多い。 「――だからまずは、“電脳”と“電脳空間”についての講義を行うよ」 ここは環境課庁舎。情報係サーバールーム前室、ARディスプレイマーカーといくつかのタワーPCで作られた急造の講義室。 とん、とレーザポインタ付きのボールペンで机を叩き、白い髪の毛が揺れる。軋ヶ谷みみみが話を続ける。 「ここ数日、環境課の管轄ブロック内でハッキング事件やネットワーク上の不審なアクセス報告

          インフォメーションの花束を

          たったひとつの冷えたより糸

          「隠岐さん、茶の子をお持ちしましたよ~」「そうですか。ありがとうございます」 そういって金属の手指がつまんだ箱が、蝋引きの紙に包まれた揚げ菓子が、脂肪と糖の複合装甲が、マホガニーのテーブルの上に置かれる。合成小麦と生成油で織り上げられたカロリーの重装歩兵が立ち並んで、ああ、ザラメの槍が、チョコレートの大楯が。見る者のボディマス指数を破壊させんと息巻いている。 振り返って、ユニコーンの女性が柔らかく笑った。“監察のバラバラにしてこない方”、“課員帳簿”、“ハードディスクドライ

          たったひとつの冷えたより糸

          心地よく秘密めいたはなし

          夕暮れのプールサイド。誰もいない、青く塗られたなまぬるいコンクリートの波打ち際。闇色の四つの瞳は灯り始めた街街の明かりを照り返すこともなく、ただただ暗く開かれていた。あるいは星ひとつ瞬かぬ夜空のように、あるいは光の息の緒が絶えた海底のように。 「ではあかつき、教えていただけませんか。ワタシのことを。」 そう言って、病的に整った能面の無表情が顔を寄せる。異常に近い。スピーカーからささやく声がくすぐったい。ちょっと腰を引きながら、メガネの少女は返事をした。 「教えてあげるね。いぶ

          心地よく秘密めいたはなし

          狗は無慈悲な夕餉の女王

          「ガメザ、ギリシアにおけるプロメテウスの火を知っているわね?」と、だしぬけに隠岐は口を開いた。 「エ?」ガメザは震える指で小さな銀のフォークをつまみながら、やや白い顔を上げる。 隠岐はその様子に一瞥もくれず、グラスに注いだ貴腐ワインをくいと舐めて、「あれはつまり」そう続ける。「火によって知恵が授けられたということを示した民話よ」 「そう、頁が捲れないほどの遠い昔、雷の山火事なんかで偶然に燃える薪を手に入れたのでしょうね。人類は」 「そうして得られた火が、その温度が、加熱調理を

          狗は無慈悲な夕餉の女王