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ミルクキャラメルと自暴自棄


教科書とペンケースとジャージ以外は没収になるのに、阿呆みたいに大きい指定スクールカバンの中学時代を終え、わたしは高校生になった。
ちょうどJKという単語を聞くようになったぐらいの時代だった。


セーラー服はブレザーになって、指定カバンはずいぶん薄くなった。

外出先でテレビが観られることも珍しかった頃で、そのワンセグ機能がまだまだ目新しかったガラケーと、分厚いバンドスコア、誰かしらのエッセイ本が常備品だった。
なにより中学と変わって嬉しかったルールは食べ物を持ち込んでOKになったことで、授業中に空腹音をこらえなくて良くなったことが画期的だった。


なぜかトランプとガムだけは持ち込み禁止だった。

ガムがだめならと、選んだきっかけは思い出せないが
森永ミルクキャラメルを必ず持ち歩いていた。
通学中や休憩時間、気が向いては食べていた。


入学して数週間、部活に入ったり皆それぞれ環境に慣れてくると、各々の性格がしっかり出るようになり、それなりに派閥が生まれる。
より気の合う友人を次第に見つけ、入学当初に行動をともにしていた子とは自然と距離を取るようになるのはよくある流れだと思う。
だけどわたしの場合、選んだ相手が悪かったか、自分の言動が悪かったか、距離を取ることにフォーカスしたその相手にひどく恨まれてしまった。
そこからはあることないこと言いふらされたり、物理的に害を与えられたりと、今思えば登校したくないと思ってもなんら不思議ではないレベルの日々だった。
そうやって何が起きても教室というあの狭い空間で一緒に過ごさなければいけないわけだし、あらためて学校というのはなんだか恐ろしい環境だな。


当時のわたしは相当気が強かった。

逆境であればあるほど、ぜったい負けてやらないという気持ちが強く、前述の嫌がらせでどれだけ居心地が悪かろうと、1日たりとも学校を休むことはなかった。(今ならすぐに環境を変えている。過去の自分本当にすごい)

仲のいい友人もたくさんいるし、部活動もかなり充実していた。
だけど当時、その気の強さや目立ちたがりな性格からあまりにも尖った発言が多く、加減を知らない言動でまわりを傷つけてしまう出来事がたくさんあった。
そうしてしまう時は決まって自身が傷ついている時で、その感情の処理方法がわからないばかりに、人を攻撃するような態度になるためだった。


あまりにも厳しい家庭環境だったことが原因だと、気づけたのはもっと歳を重ねてからだった。
高校生活でも門限は16:30、みんなが夜ご飯を食べに行くだけの日常にすら1度も参加できなかったり、あれもダメこれもダメと本当にいろんなことが許可されなかった。


大事に育ててくれたことにとても感謝しているし、今となっては大好きな家族だけれど
それは結果論であって、時間や楽しみをまわりと共有できないことがとにかく苦しくて耐え難かった。

自由に行動できる友人たちや、何時に誰とでも会える恋人に理不尽を振りかざしたり、
嫉妬深さや人を許せない性格がみるみる形成され、2年生になる頃には人付き合いに関しての雲行きがすっかり怪しくなっていた。


そんな毎日なら、自分だけの時間を謳歌したり親にうまく話をつけたりできたはずと今なら思うが、その頃は自分自身を救ってあげることは出来ず、ひねくれ度合いの加速するまま抜け道のない毎日を過ごした。
何もかも周囲のせいにして、一人前に自暴自棄になったりしていた。

ヤケ酒やギャンブルはできないから、辛い瞬間が訪れるたびにあのミルクキャラメルを、タバコ吸うみたいな気持ちで口にしたり、一杯引っかけるような心持ちで呑み込んだりしていた。いま思えば可愛い選択だけど、雨が止むことはないから甘さを傘にするしかどうしようもなかった。

どうしようもない、という言葉が本当にぴったりだった。
一日一箱かるく食べたりした。


楽しむという事象を自分だけが許されない毎日がどこまでも続いていった。

それが自身の考え方の問題であるとは、残念ながら学生時代に気づくことはもうなかった。



時が経ってブレザーはスーツになって、さらに歳を重ねた。

あの狭い狭い教室を出てからは、親の言ってた事も少しわかるなと思う瞬間があったり、不自由のなかに自由を見つけるコツを掴んだわたしは、ようやく楽しい時間を共有できる友だちが増えていった。


もうタバコはとっくに許される大人だけど、レジを通るボックスは変わらずあの橙色。
すこし久しぶりのミルクキャラメルはあの頃と同じだけ甘かった。


食べて見事に思い出す、
強がってばかりいたけど本当は悲しかったこと
攻撃するしかなかったけど本当はずっと一緒にいたかったこと
許可されない日々のなかにも楽しいことは確かにあったこと


ちゃんと過去を慈しんで振り返れるようになって、
誰にも届くことのない反省をして、
やっと少し前に進んだ気がする。


今日わたしは晴れている。


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