1.5(イッテンゴ)

城嵜 哉目(シロサキ カナメ)と申します。趣味の文章などをちまちま上げていく場所にしよ…

1.5(イッテンゴ)

城嵜 哉目(シロサキ カナメ)と申します。趣味の文章などをちまちま上げていく場所にしようと思っております。Lupe@sRM(ルゥぺ アット エスアァルエム)のサークル名で近畿圏にてイベントにも参加中。どうぞよろしく。

マガジン

  • 竜の棲む世界

    竜の棲む世界を旅するような掌編集。Twitterにて投稿した300字ssです(全12話)。 2023.01.22 関西コミティア66にて、書き下ろしのアナザーストーリーを収録したまとめ本が出ました!\(^o^)/

  • Twitter300字ss

    Twitter300字ssの投稿作品置場。毎月のお題に沿って各執筆しております。どのお話も300字きっかり、サクッと読める掌編小説です。お味見にぜひ(´-`) (※毎月第1土曜の23時には大抵投稿完了しております、が遅刻もあります)

  • 旅をする石

    2020年にTwitter300字ssにて1年間連載した掌編のまとめと、その続きの書き下ろし短編です。どうそ「包みの中」から順に下に向かって読んで下さい(上手く編集できて無くてすみません…) 2021年1月の関西コミティア60にて、まとめ版と短編版の2冊セットで初頒布。冊子版には特別掌編が掲載されておりますので、今後のイベント等で機会がございましたらご購入を検討いただけると嬉しいです(通信販売も計画中です)(´-`)

  • SS

    ショートショート

最近の記事

来し方 行く末

 砂漠の谷底で、空を見ていた。  何も持たず薄物一枚の私に、氷点下の夜は超えられまい… キャラバンは私を捨てたのだ。 「おいっ、大丈夫か?」  抱き起こされ、薄目を開けた。  ぬるい水が口元を伝う。  私は跳ね起きると、水筒に齧り付いた。  私を死地から拾ったのも、またキャラバンだった。  拾い拾われ、留まる者も去りゆく者も、入れ替わり立ち替わり…  長い長い間、そんな風景を見続けてきた。  一月前に去った二人はどうしているだろう。  私が拾った子と、その子が拾った子。

    • 竜の眼

       言い伝えでは、この島の端にある小山は、大昔に傷つき流れ着いた竜なのだと言う。  島民は皆、この話を信じている。 「それにしても蜥蜴が多いな」  浜辺を歩く足元で、ちょろちょろと細長い黒緑色が走る。  背の金属質な虹色が美しい。  小さな島だ。一日あれば歩いて一周できる。  で、朝から歩いてその場所に来てみたのだが… 「竜には見えん」  ついて来た村の子供が笑う。 「でも見てるよ」 「え?」  指差す背後を振り返る。  夥しい数の蜥蜴蜥蜴蜥蜴。  それらが一様にこちらを注視

      • 採掘人

        「糞野郎」と罵られるのは慣れている。  実際の所その通りなので、ぐうの音も出ない。  だが、客に困ったことは、一度もない。  この黒紫色の希少な宝石が、どこで採れるかを知っているのは、俺だけだからだ。  護衛を担ってくれる幼馴染にも、詳細は教えていない。  俺は秘密のその岩山で、竜糞の小山を探す。  ある鉱石を食べるその竜は、消化できなかった宝石を糞の中に残すのだ。  背丈を越える小山を掘り返し、掘り返し、掘って掘って、やっと見つけた小指の先ほどの一粒。  大物だ。  沈み

        • オアシスにて

           頬杖をついて泉で戯れる一人と一匹を眺める。  否、はしゃいでいるのは人間だけか。  仔竜は概ね大人しいものの、かといって特に懐く風でも無い。  習性で砂に潜ろうとするが、一度乾涸びた影響か鱗の隙間が広がってしまい、そこに砂が挟まるのが不快らしく、しょっちゅう身体をくねらせては地面を転がりまわっている。  見兼ねたリロが、両手で抱えて泉で振り洗いしてやっているのだ。  水に浸けた身体を揺らすとサラサラと隙間に詰まった砂が離れて落ちてゆく。「気持ちいいか?」  リロが竜の顔

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        • 竜の棲む世界
          12本
        • Twitter300字ss
          32本
        • 旅をする石
          13本
        • SS
          1本

        記事

          手仕事

           パキン パキキ パキ  ベキッ 「また割った!」 「姉ちゃん、うるさい…」  少年がうんざり顔で机に突っ伏す。  父親がその一枚を無言で拾い上げ、検分する。 「うん、ダメだな」  しょげ返る少年。  初夏の鱗竜飼いは繁忙期だ。  早春に婚姻色に染まった鱗が、この時期大量に落ちるのを集めて、細工物用に加工するのだ。  親指大の一枚を三枚に剥ぐのだが、二層目と三層目を分けるのが特に難しい。  真珠色の三層目が一番高値で取引されるので、ここが腕の見せ所なのだが、少年はどうにも

          翠の箱庭

          「いつ来てもほんと凄いですね、ここ」  助手が辺りを見回し、感嘆の声を漏らす。 「これが人工の空間だなんて」 「そうだな」  彼はおざなりに返事をし、足元に置いたケージの扉を開けた。  暫く待つと、掌に乗る程の小さな竜が顔を覗かせる。 「このコも売約済みですっけ」 「ああ」  羽音を響かせ飛び去る姿を見送り、彼は深く息をついた。  採集数は国よって厳密に管理されており、ピクシー達はこの温室で一生を過ごした後、標本か剥製となる。殆どは研究機関行きだが、一握りは高額で売買され、

          紙飛行機

           広い部屋の中を、紙飛行機が滑ってゆく。  天蓋付きのベッドから対面の壁に向かって真っ直ぐに。  そのままぶつかり、鼻面をひしゃげさせながら落下する。  壁沿いの床は、さしずめ紙飛行機の墓場だった。  床に散らばるそれらを片付けながら、執事が主に声を掛ける。 「坊ちゃん、シシリー様から贈り物です」  応えはない。執事は構わず続けた。 「今度は絶対に気に入る、とのことですよ」  広い部屋の中を、紙飛行機が滑ってゆく。  変な軌道を描いて。  室内を俊敏に飛び回る小さな竜が、宙

          王座

          「やっておくれ」  促され、歳若い侍従がその手の剃刀を動かすと、次々と髪の束が床に落ちた。 「そんな顔しないで、スィ」  椅子に掛け、四阿越しに見上げる青空に、白い鱗の龍が身をくねらせ泳いでいる。 「あの龍だって、本当ならリェン様のものなのに」 「龍が王の乗り物だったのなんて昔の話さ。兄達のような武力の持ち合わせはないし、このままでは私の命はない」  四阿の床に点々と侍従の悔し涙が落ちる。 「私もお供します」  だが、男は柔らかく首を振った。 「駄目だよ、スィ。君はここに残

          主 従

          『殺さないでくれ』  声も出せない様子のそいつから放射されているそれは、祈りってやつだったのかもしれない。  俺には分からん。高次のモノに祈った事などない。 「俺が手を下すまでもなく死ぬさ。騎竜を落としたかったんだが、まぁ騎手でも問題は無いな」  大振りの弓を背負い直し、目の前に転がる男を見下ろす。  その目の奥の懇願。 「…?」  と辺りが翳り、俺はその場を飛び退った。  さっきまで居た位置に、地響きをたてて翼竜が降り立つ。  背後に男を庇い、鱗を逆立て牙を剥き出し威嚇し

          さよなら キャラバン

           嵐の去った砂漠の只中で、干からびた砂色の竜の仔を見つけた。  まだ生きている。  急いで隊に連れ帰った。 「砂竜は情深い、ひと月も経ってやって来た親竜に全滅させられた隊もある」  お婆が渋い顔をする。  隣のユーランが頭をかきかき言った。 「カラカラで転がってたから放って置けなかったんだよな… 婆ぁ、目付なのに目ぇ離した俺が悪い、今直ぐ連れて出るよ。リロ、お前も来い、支度すんぞ」  ユーランに促され、半泣きで天幕を出る。 「まあ何だ、俺も婆ぁに拾われた口だ …カラカラは

          さよなら キャラバン

          密やかなる教理

           その隠れ里の岩戸の奥には、鎖に繋れた竜がいる。  僅かの灯りにも真珠色に輝く、神秘的なその鱗。  足元には、白絹の衣を身に着けた病の男が横たわる。  呼吸が細く、忙しない。 「逝クカ、ろろすヨ」 「短い間しか、務めを為せず… 申し訳ありません、ウル」  延べた男の手に、竜がそっと鼻先を添える。 「貴方から見れば、我らの一生など、虫の一時でしょうに… 都度の恵みに… 感謝を」  捧げ持つ美しい鉢で、脇侍が竜の眼から滴る水滴を受け止める。 「もっと、時間、が… その鎖

          密やかなる教理

          旅をする石 ②

           <3> 話し込んでいる間に夕方になり、食事と風呂を終え、ミチは充てがわれた部屋の布団の上でひっくり返っていた。  この所、野宿続きであったし、この宿を目指して歩き詰めだったこともあり、随分と疲れが溜まっている。  身体だけではない。ハクロについて思う事が様々あり、心の方もくたくたであった。 「どうして思い至らなかったんだろう…」  手がかりは、ずっと目の前にあったのに。もっと早くに思い至っていれば、これほど時間を無駄にせず済んだかもしれないのに。  焦りゆえか、視野が狭くな

          托卵

           あんな大人しい老竜に振り落とされるなんて、運の無い奴。  同期の嘲弄をベッドの上で聞く。  左足は元に戻らないそうだ。両の足で操る通常の騎竜に乗るのは、この先も不可能と言われた。 「育者への道もある、気を落とさないで」  医者の取り成しが耳を滑る。 「いよっ」  三日後、豪放に笑う飼育担当の学園教官が訪ねて来た。 「育舎の白竜のだ。暇ならそれ、温っためてろや」  投げ渡されたのは、卵。    生まれた仔は、白竜では無かった。  育舎の担当は「いつ混じったかさっぱり」と首を

          旅をする石 ①

           <1>  視界の隅をひら、と赤い色が通り過ぎた。  少年が目深に被った笠を押し上げ、それを目で追う。  歳の頃は十六、七だろうか。面差しにはまだ僅かに幼さが残っているが、歳の割には旅装が随分と様になっている。  勾配の急な峠越えの道中だった。考え事をしながら俯いて歩いていた為、周囲の変化に少しも気付いていなかった。  そこは色付いたもみじの大群落で、笠の先を持ち上げ頭上を見上げると、日差しを透かして山が赤々と燃え上がっていた。 「おぉ… 凄いな」  歩き詰めで乱れた息を整え

          春眠

           欠伸が出る。  長閑な春の昼下がりだった。  宿を出て街道沿いで露店を出したが、気が付くとうつらうつらしている。  昨夜は寒くて眠れず、酷い寝不足だった。 「駄目だ、眠い」  大きな桜の木の下で、そのままごろりとひっくり返る。  あらかたの花は散り、葉桜になり掛けの中途半端な枝先が目に入る。  ハクロも宿に泊った翌日は、よく眠そうにしていた。 「テイ、お前のせいだぞ」  愚痴を溢しつつ懐に抱いたそれを叩く手は、だが、どこか優しい。  腹の上にごろりと重さを伝えてくるその石

          背守り

          「お手を煩わせちまって」 「お得意のあなたの頼みです、訳はありません」  そう言って女は微笑んだ。
 「随分と可愛らしいお頼み事ですこと」 「本来は産着にするもんなんでやしょうけど」  男はそう言って頭をかいた。 「道中、後ろを気にせず歩ければと思いやしてね… 気休めですが」  女が静かに首を振り、手元の刺繍を撫でる。 「たかがおまじない、されどおまじない… この縫い『目』がちゃんと見張ってくれますよ」  手渡された子供用の着物に男は目を細めた。 「吉祥の蝙蝠とは都合がいい