主 従

『殺さないでくれ』

 声も出せない様子のそいつから放射されているそれは、祈りってやつだったのかもしれない。
 俺には分からん。高次のモノに祈った事などない。
「俺が手を下すまでもなく死ぬさ。騎竜を落としたかったんだが、まぁ騎手でも問題は無いな」
 大振りの弓を背負い直し、目の前に転がる男を見下ろす。
 その目の奥の懇願。
「…?」
 と辺りが翳り、俺はその場を飛び退った。
 さっきまで居た位置に、地響きをたてて翼竜が降り立つ。
 背後に男を庇い、鱗を逆立て牙を剥き出し威嚇してくる。

『殺さないでくれ』

「…なるほど」
 得心がいった。
「が、戦争なんでな」
 そう言って俺は、抜き放った屠竜刀を振り被った。

「面倒なものだ主従なんて… お互い」


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Twitter300字ss  第83回  お題「祈る」   ジャンル「オリジナル」
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Twitter300字ss企画内にて今年いっぱいの連作延長戦、竜の棲む世界を舞台にしたシリーズ4作目です。よろしければ次回もお楽しみに(´-`)

【前のお話:さよなら キャラバン】
https://note.com/1_ten_5/n/n4af46d6da08f