手仕事
パキン パキキ パキ ベキッ
「また割った!」
「姉ちゃん、うるさい…」
少年がうんざり顔で机に突っ伏す。
父親がその一枚を無言で拾い上げ、検分する。
「うん、ダメだな」
しょげ返る少年。
初夏の鱗竜飼いは繁忙期だ。
早春に婚姻色に染まった鱗が、この時期大量に落ちるのを集めて、細工物用に加工するのだ。
親指大の一枚を三枚に剥ぐのだが、二層目と三層目を分けるのが特に難しい。
真珠色の三層目が一番高値で取引されるので、ここが腕の見せ所なのだが、少年はどうにもこの作業が苦手なのだ。
「ほら、お夜食」
母親が苦笑しながら、スープの椀を配る。
テーブルの下、寝そべる一匹の竜が後脚で首筋を掻く。
カラカラと音を立て、追加の鱗が床に散った。
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Twitter300字ss 第87回 お題「手」 ジャンル「オリジナル」
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Twitter300字ss企画内にて今年いっぱいの連作延長戦、竜の棲む世界を舞台にしたシリーズ8作目です。よろしければ次回もお楽しみに(´-`)
【前のお話:翠の箱庭】
https://note.com/1_ten_5/n/nc9fc4218d40a