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密やかなる教理

 その隠れ里の岩戸の奥には、鎖に繋れた竜がいる。
 僅かの灯りにも真珠色に輝く、神秘的なその鱗。
 足元には、白絹の衣を身に着けた病の男が横たわる。
 呼吸が細く、忙しない。

「逝クカ、ろろすヨ」
「短い間しか、務めを為せず… 申し訳ありません、ウル」

 延べた男の手に、竜がそっと鼻先を添える。

「貴方から見れば、我らの一生など、虫の一時でしょうに… 都度の恵みに… 感謝を」

 捧げ持つ美しい鉢で、脇侍が竜の眼から滴る水滴を受け止める。

「もっと、時間、が… その鎖も…」
「喋ラズトモ良イ」

 鉢を捧げ持ったままの脇侍が「どうぞ、ご存分に」と言い、頭を低くして後退る。
 岩戸の奥で響く生々しいその音を、この里では誰も、悍(おぞ)ましいとは言わない。



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Twitter300字ss  第73回  お題「隠す」   ジャンル「オリジナル」
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Twitter300字ss企画内にて今年1年期限の連作、竜の棲む世界を舞台にしたシリーズ2作目です。よろしければ次回もお楽しみに(´-`)

【前のお話:托卵】
https://note.com/1_ten_5/n/ncb947485ab75