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王座

「やっておくれ」
 促され、歳若い侍従がその手の剃刀を動かすと、次々と髪の束が床に落ちた。
「そんな顔しないで、スィ」
 椅子に掛け、四阿越しに見上げる青空に、白い鱗の龍が身をくねらせ泳いでいる。

「あの龍だって、本当ならリェン様のものなのに」
「龍が王の乗り物だったのなんて昔の話さ。兄達のような武力の持ち合わせはないし、このままでは私の命はない」
 四阿の床に点々と侍従の悔し涙が落ちる。
「私もお供します」
 だが、男は柔らかく首を振った。
「駄目だよ、スィ。君はここに残るんだ」

 ピュィと指笛を吹くと、遠くの龍が一目散に此方へと泳ぎ来る。
 傍に戻った龍の顎先を撫でながら、男は嫣然と笑んだ。

「残って私の耳目になっておくれ」

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Twitter300字ss  第84回  お題「捨てる/棄てる」   ジャンル「オリジナル」
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Twitter300字ss企画内にて今年いっぱいの連作延長戦、竜の棲む世界を舞台にしたシリーズ5作目です。よろしければ次回もお楽しみに(´-`)

【前のお話:主従】
https://note.com/1_ten_5/n/nb6d848e7bcd5