竜の眼

 言い伝えでは、この島の端にある小山は、大昔に傷つき流れ着いた竜なのだと言う。
 島民は皆、この話を信じている。

「それにしても蜥蜴が多いな」
 浜辺を歩く足元で、ちょろちょろと細長い黒緑色が走る。
 背の金属質な虹色が美しい。
 小さな島だ。一日あれば歩いて一周できる。
 で、朝から歩いてその場所に来てみたのだが…
「竜には見えん」
 ついて来た村の子供が笑う。
「でも見てるよ」
「え?」
 指差す背後を振り返る。
 夥しい数の蜥蜴蜥蜴蜥蜴。
 それらが一様にこちらを注視している。

 竜はまだ、生きているのだと言う。
 分身を島中に放ち、稀にやって来る旅人を観察したり驚かせたりするのだとか。
「悪戯好きなんだよ」と島民は笑う。

 真偽は定かでは無い。


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Twitter300字ss  第90回  お題「流れる」   ジャンル「オリジナル」
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Twitter300字ss企画内にて今年いっぱいの連作延長戦、竜の棲む世界を舞台にしたシリーズ11作目です。よろしければ次回もお楽しみに(´-`)

【前のお話:採掘人】
https://note.com/1_ten_5/n/n8f82164e0863