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2022年9月 読書記録

プルースト『失われた時を求めて』 第一篇「スワン家のほうへ」(光文社古典新訳文庫)

 森鷗外同様、プルーストも今年没後百年を迎えた作家です。学生時代に読み流しただけなので、再読したいと思いつつも、文庫本で十数冊というボリュームのある作品ですから、ためらいもあり…。
 そんな時、村上春樹さんの『1Q84』に、プルーストを一日二十ページずつ、丁寧に読むと書いてあるのを見て、「これなら、できるかな?」と思い、真似することに決めました。今、第一篇を読み終えたところですが、この読み方はプルーストにとても合っていると思います。
 私にとって、『失われた時を求めて』は面白い部分(会話や人物描写)と退屈な部分(フランスの風土の描写等→フランスをよく知っているのが前提の心象的な描写なので、ついていけない)の差が極めて大きい作品でした。といって、退屈な部分を読み飛ばしてしまうと、真髄が失われてしまうのが何となくわかります。
 ところが、一度に二十ページだけと決めていると、退屈な部分も身を入れて読めるので、内容には興味が持てなくても、描写の美しさ、比喩の的確さなどが沁みてきて、プルーストの新たな魅力に開眼できました。
 光文社文庫版の第1巻はKindle Unlimitedに入っているので、興味のある方は試しに読んでみて下さい。


ゴーゴリ『鼻/外套/査察官』(光文社古典新訳文庫)

 つい最近までウクライナ人といえば、元サッカー選手のシェフチェンコしか知りませんでした。ミラ・ジョボヴィッチ(《バイオ・ハザード》のアリス)やオルガ・キュリレンコ(《慰めの報酬》のボンドガール)も、スラヴ系アメリカ人ぐらいの認識しかなく。
 自分の不勉強を恥じていた時にゴーゴリがウクライナ人だと知って、この短編集を読み直しました。もともとゴーゴリは、ウクライナの伝承に基づいた作品によって有名になったそうです(『ディカーニカ近郷夜話』。戦前の翻訳が青空文庫にあり)。
 ただ、今回読んだ短編や戯曲は、ゴーゴリ風としか言いようのない作品なので、それを、どこの国の作品なのかと意識しなくてはならない状況はとても残念です。
 グロテスクで、過剰に豊穣で、戯画的なのに心に残る描写、威張くさった上級官僚たちと哀愁漂う下級官僚たち…。ドストエフスキーやチェーホフに受け継がれていく特性であり、ロシア文学の特徴としても思い浮かぶものをゴーゴリは作り出したのだなぁと思います。だからこそ、ゴーゴリの帰属をめぐってロシアとウクライナが争うなどといった悲しい事態になるのでしょう…。

 また、七月に芥川龍之介の作品をまとめて読んだので、ゴーゴリの芥川への影響もよくわかりました。芥川の『鼻』がゴーゴリの『外套』に影響を受けているのは有名ですが、それだけではなく、人物描写やものの見方もゴーゴリの影響がありそうです(最後の身の処し方もゴーゴリの影響を受けたのかもしれないと考えてしまいます)。この短編集もKindle Unlimitedに入っているので、芥川ファンの方はぜひ読んでみてください。


魯迅『阿Q伝/故郷』(光文社古典新訳文庫)

 中国文化に興味がないので、長らく魯迅を避けていたのですが、読んでみると、モダンで親しみやすい作品ばかりでした。
 初めて魯迅を読んだ時は、欧米の小説ばかり読んでいる時期だったので、その延長線にある作品だと感じたものです。
 今回は、明治期の日本文学を読んでいる最中ということもあり、魯迅が日本文学にも大きな影響を受けていることがわかりました。
 ゴーゴリ、チェーホフ、芥川龍之介。私が知っている作家では、この三人の影響が特に感じられました。ゴーゴリの皮肉な眼差し、チェーホフの哀愁とかなしみ。芥川の作品では、随筆風の小説をお手本にしていますね。
 清朝末期〜中華民国成立期の状況が織り込まれているのに、無国籍で近代的な雰囲気が漂う魯迅の小説。解説では、村上春樹さんの初期作品と魯迅の作品が比較されていたので、今後、村上さんの作品を読む時の参考にしたいです。



魯迅は、東京では元の漱石邸に住んでいた。


塩野七海『ギリシア人の物語Ⅰ 民主政の始まり』(新潮社)

 いつまで待っても文庫にならないので、Kindleのポイントバックセールで購入しました。これを書かれた時、塩野さんは七十代後半。『ローマ人の物語』と比べると、繰り返しや現代との安易な比較が増えているかな…。高校時代に『ルネサンスの女たち』を読んで独特の鋭い文章に夢中になった身としては(一瞬、西洋史専攻に進もうかと思ったほど)、少し残念です。とはいえ、小説を読む合間の気分転換に少しずつ読んでいるので、繰り返しも悪くないかな。記憶力の衰えを感じる今日この頃なので。Amazon primeで放映している《指輪物語》なんて、一週経つと、この人誰だっけ? と忘れかけているんですよね…。

塩野七海さんのおすすめ作品 
『ルネサンスの女たち』
『我が友マキアヴェッリ』(どちらも新潮文庫)


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