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2022年7月 読書記録

 上半期は鷗外・漱石・春樹に没頭するあまり、他の小説が読めなかったので、七月は意識して、それ以外の小説を間に挟むようにしました。普段気分転換に読んでいるミステリ小説がないのは、ディズニープラスで配信が始まった《デアデビル》でエンタメ熱が満たされているからです。ハードボイルドな大人のマーベルドラマ。フランク・ミラーの原作コミックも気になります。
 

『戯作三昧』等芥川龍之介の歴史小説

 7月24日が河童忌(芥川の命日)なので、今まで馴染みがなかった、鎌倉〜江戸時代を舞台にした歴史小説を読んでみました。芥川の作品の中ではマイナーな部類に属するかと思いますが、歴史異聞的な作品や有名人の知られざる一面を描いた作品など、楽しく読むことができました。
 芥川自身は、後年、小説の物語性に重きを置かなくなったようですし、個人的にも後期の随筆風の作品が一番好きなのですが、今回読んだ歴史小説にもまた別の良さがありました。
 特に面白かったのは、滝沢馬琴が主人公の『戯作三昧』です。馬琴と芥川は、性格的には真逆ですが(馬琴は、図太い変人というイメージ)、作品に対するストイックな態度が似ていますね。馬琴が芸術論を語り合う相手が渡辺崋山なのも歴史小説のツボを抑えているなぁと思いました。


野田宇太郎『新東京文学散歩 上野から麻布まで』

『新東京文学散歩 漱石・一葉・荷風など』

 森鷗外にはまったのがきっかけで、日本の近代文学を読みたくなったのですが、ビッグネーム以外はつながりや作風をよく知らないことに気付きました。それを解消するために購入した本です。著者が東京を歩いて、作家の旧宅や墓を紹介しているのですが、作家の略歴や主要作品の紹介も書いてあるので、明治〜昭和初期までの文学史をかなり把握できるようになりました。
 驚いたのは、終戦から六年後の昭和26年に東京を歩いているのに、空襲で焼けたままになっている場所が結構あること。また、東大近くの西片町など、空襲で焼けずに済んだと思っていた町も、それ以前に空襲時の延焼を防ぐために更地になり、この時期でもまだ復興が進んでいないと書いてありました。東京の空襲についてはそれなりに知っているつもりでしたが、六年経っても傷跡が色濃く残っていたとは。そんな苦しい時代でも、日本人の文学への欲求は強く、この本はベストセラーになったそうです。


エリザベス・ストラウト『バージェス家の出来事』

 HBOの傑作ドラマ《オリーヴ・キタリッジ》(フランシス・マクドーマンド主演)の原作者による連作短編集です。
 若い頃は、四十過ぎたら、そこそこ吹っ切れてうまく生きることができるようになるだろうと考えていたけれど、現実には、不器用でダメダメな部分は変わらず、面倒なしがらみやら何やらも付け加わって。あー、私、何やってるんだと頭を抱えたくなる毎日なので、この短編集に登場する人達に共感できました(逆に、世渡り上手な人は、こいつら、何やってるんだ? と呆れてしまうかも)。
 過去のトラウマや生きづらさを抱えながらも、自分を憐れむこともなく、必要以上に深刻になることもなく。基本、人は一人だけれど、時には誰かと肩を寄せ合って。そんな風に生きている人達を描いた作品集でした。


大江健三郎『新しい人よ目覚めよ』

 作家である語り手と障がいのある息子を中心とした家族の日常をウィリアム・ブレイクの預言詩とリンクさせながら描く連作短編集ーーと書くと、難しそうに聞こえますが、これまで読んだ中では最もわかりやすく、最も作品世界に入り込みやすい大江作品でした。
 大江さんの作品は難しいわけではないのですが、独特の世界観なので、読むとごっそり体力を奪われてしまいます。そのせいで、読みたいと思いつつもなかなか手が出せないのですが、この作品は、作品の世界に入り込んでも疲れない。むしろ、読み終えた後にすがすがしさを覚えました。
 何といっても、障がいを持った長男、イーヨー君の描写が魅力的です。彼自身や家族が直面する困難をリアルに書きながらも、重さではなく、ユーモアと希望を感じさせる書き方になっています。語り手の、頭脳明晰だけど生活力ゼロでとことん不器用な男性(自虐ユーモアもあり)は、他の作品と同じ。作者のこのセルフイメージを受け入れられるか、ウザいと感じるかが、大江作品に対する印象を決めそうです。
 作品の背景にある学生運動についてはよく知らず、興味もない(特に知りたくもない)のですが、私のようにあの時代を知らない読者の方が、この作品に漂う超現実的・寓話的な雰囲気を楽しめるかもしれません。同時代を生きた人達にとっては特別な意味を持つ作品なのでしょうが、それがわからなくても別の読み方ができる、時代を超えた小説だと思いました。


 芥川の作品以外は、Amazonのポイントバックセールで購入しました。他にもあれこれまとめて購入したので、しばらく読書三昧になりそうです。




 


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