松下幸之助と『経営の技法』#18
「法と経営学」の観点から、松下幸之助を読み解いてみます。
テキストは、「運命を生かす」(PHP研究所)。日めくりカレンダーのように、一日一言紹介されています。その一言ずつを、該当する日付ごとに、読み解いていきます。
1.3/4の金言
人は誰もが、磨けばそれぞれに光る、さまざまな素晴らしい素質をもっている。
2.3/4の概要
松下幸之助氏は、以下のように話しています。
人間は、ダイヤモンドの原石であり、磨けば光るし、磨き方やカットの仕方によってさまざまに異なる燦然とした輝きを放つ。
だから、人間の本質をよく認識して、それぞれの人がもっているすぐれた素質が生きるように配慮をして、人を育て、生かしていく。このような認識が、良い人材も生かされる。
3.内部統制(下の正三角形)の問題
まず、社長が率いる会社の内部の問題から考えましょう。
松下幸之助氏は、人材活用の重要性を強調しています。経営者が会社をコントロールする重大なツールは、古今東西共通する「人」「金」です。人事は、この2つのうちの1つである「人」に該当しますので、極めて重要な経営上のツールでした。
しかも、アメリカのように比較的自由に従業員を解雇できるのに対し、日本の労働法の下では自由に解雇できず(解雇権濫用の法理)、その反面として従業員を活用しなければならない、という制約があります。この制約に対応するために、人材を何としてでも活用しなければならない、という外的な要因が重視されます。
けれども、なぜ、解雇権濫用の法理が生まれたのでしょうか。
近時の研究では、この解雇権濫用の法理は、高度経済成長期に確立したルールを承認していったものと考えられています。すなわち、高度経済成長後の不景気時代に、会社側の事情で整理された従業員たちを守るために、この法理が適用されました。しかし、このときに突然、この法理が生み出されたわけではありません。高度経済成長期に確立した終身雇用のルールが、従業員の生活を守るために「解雇権濫用の法理」として具体化したのです。
すなわち、「解雇権濫用の法理」の基礎となる終身雇用制度は、高度経済成長期に確立したのです。
このことから逆に考えると、高度経済成長を支えた制度が終身雇用制です。
つまり、「解雇できないから、何とか活用する」という消極的な理由ではなく、「人材を活用するために長く雇用する」という積極的な理由があったのです。
その根拠の1つが、この、松下幸之助氏の金言です。
氏は、1918年に松下電器を設立、戦後の高度経済成長期に大きく成長させました。このような経緯のある氏が、会社経営のための金言として、従業員の能力を磨くべきである、と説明しています。このことから、氏は、解雇できないから人材を活用したのではなく、人材を活用するために長く雇用したことが理解されるのです。
4.ガバナンス(上の逆三角形)の問題
次に、ガバナンス上の問題を検討しましょう。
このような長期雇用は、日本固有のガバナンス体制にもつながります。株主が主導的に経営者を選ぶのではなく、従業員の中から、従業員同士の競争を通して選ばれていくことになったのです。
もちろん、このことが日本型経営の弱点とも言われますから、このような体制を無条件で称賛するものではありません。
けれども、ガバナンス体制と内部統制は、このように密接に関連します。
例えば、役員の選任のルールや運用は、従業員の雇用のルールと連動するところがありますから、特に歴史の長い会社であるほど、両者の関係を慎重に見極めた検討が必要なのです。
5.おわりに
実際、氏は、戦後の混乱期に、内部留保を取り崩して雇用を維持しました。このことが労働組合にも評価され、GHQによる公職追放処分の解除(1947年)に繋がりました。
人を大事にする、という発想は、氏の金言の中で度々強調されるものです。現在の我々の状況から見れば、自由に解雇できないという社会的なルールから逆算した、消極的な理由の方が強調されますが、少子化によって人材の確保が難しくなる中で、人材活用を重視する伝統的な経営手法を、改めて積極的に見直す必要があるように思われるのです。
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