イキウラム・カリギュラム

冷たい真っ赤な花の樹の下　
そこには屍体が埋められている
蠢く蟲と闇の中から　あなたを待ち伏せている

コノ世ヲ、イキウラム

水鏡の中　語りかけてくる　
もう一人の私の声が
冷たい唇重ね　舌を絡める刹那に　
ひら、ひらと風に乗せて舞う花弁

とろり溶けて　花を咲かせ　
首筋に小指を立てて
冷たい夜に死季の匂い感じた

土の中で　膝を抱え　もう一人の花が咲いた
影に　踏まれ　イキウラム

死にぞこないの詩人が
辞世の句を詠みに来る桜の木には
埋葬虫が一匹入れるような穴が
開いているのだが
古の挿話によると、その穴を覗いた者は
皆の記憶から抹消され異界へと拐われるという

血だまりのこの世界で　
あなたを待ち伏せている
イキウラム　ごめんね　カリギュラム

真っ赤な花の樹の下　屍体が埋められている
蠢く蟲と闇の中

生きるだけが　罪滅ぼし　
左目に真実を　右目に現世を
私はこの世にポッカリと穴をあけ
咲き乱れる赤い花の養分となるのだ

コノ世ヲ、イキウラム為ニ！！

首筋に苦痛を　牙を立てる約束
イキウラム　この世の　始まりを

血だまりのこの世界で　
あなたを待ち伏せている
イキウラム　ごめんね　カリギュラム

真っ赤な花の樹の下で　

そして私は再び鏡の中に入り込み　
あなたと唇を重ね舌を絡める
まるで土の中で幾つもの根が這う桜の樹の様に

イキウラム・カリギュラム
それは決して覗いてはいけない
自分のもう一人の世界であり
それが花であるのか苦痛であるのかは
春の訪れしか知らない

2019年　ストロベリーソングオーケストラ演劇作品
「拝啓、R先生～或ル匣ノ事件簿」劇中歌
原作・江戸川乱歩　　写真/川喜田 伸輔
作詩/宮悪 戦車　作曲/犬拐 雄叫