見知らぬあの子とうまい棒
「あーーー、男の子だね。うん。」
のんびりした口調で担当医が告げた時、
私の頭に浮かんだのは
「やっぱりね」
という腑に落ちたような思いと、
ある小さな男の子の姿だった。
* * *
あれは、妊娠4ヶ月頃。
週末のある日、夫とショッピングモールに出かけた。
それぞれ分かれて店内を見てまわり、夫の姿を探すと、まだ洋服を品定め中のもよう。
混みあう店内に疲れ、私は店の前にあるベンチに座って、夫を待つことにした。
すると、ひとりの男の子がタタッ……とこちらに走ってきたかと思うと
すとん。
と、躊躇なく私のすぐとなりに腰かけた。
当時は分からなかったけど、今思えば4~5才くらい。手にはうまい棒を握りしめている。
ベンチは5人ほど座れる長さがあるのに、何故か彼はぴったりと寄り添うように、私にくっついて座った。
「ん……?なんだかちょっと近いな……。」
すこし戸惑いはしたものの、相手は小さなこども。私からずれるのも不自然かと、何となくそのままでいた。
出産前、私はほんの少しこどもが苦手だった。
嫌いという訳ではなく、どう接していいか分からなくて、うっすら緊張してしまうのだ。
傷つけないように、とか、優しくしなくちゃな…とか。話すにしてもくだけた感じでもいいのか、このくらいの子だともう少し丁寧な方が……いやでも敬語はおかしいよね?等々。
ひとりっ子で育ち、小さい子と触れあう機会もなかった。慣れてない上に、元々の考えすぎる性格もあるだろう。
(ちなみに今は知らないこどもにも、危ないよー!道路で遊ばない!!と怒鳴れるほどに成長)
そっと横を伺うと、彼は私の戸惑いなどお構いなしに、手にしたうまい棒の袋を開けてむしゃむしゃと食べ始めた。
足をブラブラさせながら、うまい棒をほおばる男の子と、となりにやや緊張して座る私。
なんだろ……これ。
端から見たら、完全に「ママとこども」の図だよね。
その子を見ているうちに、段々と不思議な気持ちが湧いてきた。
そうか……。お腹の赤ちゃんが無事に生まれてきたら、数年後にはこんな感じなのかな…?
安定期を過ぎても続くつわりと、ちゃんと育っているかな、生まれてきてくれるかなという不安でいっぱいいっぱいで、生まれたその後の想像まではうまく出来ずにいた。
こうやって、お腹の子と並んでベンチに座る日がくるのかな。本当に?
お互い特に何を話すでもなく、時間にしたら10分足らずだったと思う。けれど、それはすごく不思議で、ふわふわした幸せな時間だった。
店から出てきた夫が、私と並ぶ男の子の姿を見つけてびっくりした表情のあと、
「いつ産んだの?」
と、笑った。
その子のパパも程なく「お待たせー!」と紙袋を携えてやってきた。どうやら店内が混んでるので、買い物と会計に並ぶ間、おやつを渡して待たせていたみたい。
夫も私と同じく、「もしかして数年後にはこんな光景が見れるのかなと思ったよ」と、嬉しそうだった。
* * *
それから気のせいかもしれないけど、何故か男の子に懐かれることが増えた。公園で遊ぼうよと誘われたり、スーパーで急に親しげに話しかけられたり。
私が意識しちゃったからだと言われればそれまでだけど、そんな事が続いて、何となくお腹の子は男の子かも?と思い始めた。
まあ2分の1の確率だから。
たまたま偶然が重なっただけかもしれない。
でも、その小さな思い出は、お腹の赤ちゃんとの未来を現実味をもって想像できるきっかけになり、出産までの大変な日々の中(結局生まれる日まで吐きづわりが続いた…)、私を何度も何度も励ましてくれたのは事実だ。
あの日の光景を思い出す時、何故かいつも目線は私から彼を見る絵ではなく、真正面からベンチを見た光景だ。
私と、ぴったり横に座った男の子。
今、私と息子は、他の誰かが見たらこんな風に見えてるのかな。
あの光景に、伝えたい。
私を、たくさんたくさん励ましてくれてありがとう。もしあの光景に戻れることがあれば、今ならあの子に聞いてみたいな。
「うまい棒、美味しいよね。なに味が好き?」
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