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詩「曲線にかたまる挽歌」#1/9

ちさき子に水をうけとる遠道

薄紅が爆発した五稜郭
背丈程の樹木と共に
桜は好きではない
毎年をこれでもかと刻んでしまう
はきと

最後の旅だったのか
いや
最期にもう一度旅立つ
無へ

まぶしくはない日本晴
父さんにとって故郷函館での最後の日となった

くるみを二個持って
手のひらで回す

確定した届かなさが幅をきかせる

思い出は思い出を殺す
楽しかったことの裏側を探る
疲れ果てるほど境界を信じない

混じりけのない記憶はない
事実は一つだけれども

幼いころ
夏は毎年父さんの実家がある函館に行った
函館に親せきやいとこが集まった

あの頃は早朝がまぶしすぎて目を開けられなかった

道中長万部でジュースを飲む
俺は毎年熱をだして口内炎がひどかった
カニ飯が食えなかった

高速道路はなかった

長万部の海は砂浜が狭い
危なくて泳げない海
でも大沼よりも強烈に覚えてる憧憬

トンネルを通るたびに息をとめた
黒いナンバーは縁起が悪いと信じていた
子どもは平等に愛されるのだと思っていた

たまらなく瑠璃色の万華鏡
原色をちりばめただるま落とし
初めての映画館
興奮してしゃべりすぎていとこに怒られる

アリがばあちゃんの家を行進していた
いつも100玉を40枚ほどもらった
ビニール袋に入れてもらった
ばあちゃんの家にはいとこの写真が飾られていた
俺の写真は一枚もなかった
狭いばあちゃんの家にはたくさん布団があった

いくらでもバッタはいるのにセミは一度も捕まえられない

カステラと牛乳
オロナミンC

父さんは漬物が嫌いだった


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