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「犬はバナナを食べない」9

 墓地は、長い坂を登った所に、あった。とても広く、墓地全体が山のようにつらなっており、一旦ヒューと風が吹くと、どこまでも吹き渡るように、あつには感じられた。納骨の際に、来たはずなのに、未だに、墓地に沢山の死者が眠っているということにただただ、驚かされた。もしかしたら、それはあつの母ではなく、ミキヨシの彼女だったかも知れない。いや、もしかしたら、あの時トボトボと夜道を彷徨っていた、私なのかも、知れない。そう思ったら、フッと迷いが解けたような気がして、あつの足取りは、より一層確かになった。山の中腹に、母の墓はあった。実は、これは、母方の祖母等が入っている墓で、これで、母と父は、ついに違う墓に入ることになるのであった。
 「お母さん、ただ今。」
 そっと、墓石に水を掛けて、線香に火を付ける。線香を備えたら、母に手を合わせる。
 「帰ってきたよ。」
 何時でも、あつの帰るところは、母との思い出の日々なのだった。母が死んでも、それはなんら変わらない。 
 ひとしきり手を合わせると、そこには広い広い青空が広がっていた。

 あつは、高校を辞めた。皆に止められ、特により子には、泣いて止められたが、あつは構わなかった。より子には、「大丈夫。友情は、永遠。」と言ったが、より子が彼氏を作ったら、この友情は、終わりだろうとも気付いていた。きっぱりと、高卒認定試験を取って、通信大学に行くつもりだと言った。相変わらず、生活は苦しかったから、苦渋の選択だった。皆の意見を吹き飛ばして、あつはバイト探しに精を出し始めた。

 「あっちゃん!今帰り?」
帰宅しようと、アパートの階段を登っていると、お隣の娘さんが、ドアの隙間からこちらを覗いていた。
「はい。」
「皆、心配してるのよ。お母さんが、こんなことになっちゃって、、。あっちゃん、平気?」
娘さんなりの心配に、あつは心から感謝して、
「大丈夫です。ありがとうございます。」
と、一礼をした。
「母とも話してたんだけどね、何かあったら、いつでも言ってね!」
「ありがとう。」
あつは、微笑んで自宅の扉の中に消えた。

 ぐわんぐわんぐわんぐわん。
「あ、より子?あたし、あたし。」
ぐわんぐわんぐわんぐわん。洗濯物が、洗濯機の中で跳ねている。
「そうそう!え!そうなの?出来たの?男?」
ぐわんぐわんぐわんぐわん。
「あー。それで出会ったのか~。ナルホド!あたし?あたしも、ついこの間、応募して来たよ!あたしの初の小説!!」
ぐわんぐわんぐわんぐわん。
「そうそう!それで徹夜続きで、頭が痛くってさあ〜!」
コインランドリーの中で、あつは一人、にっこり、アハハ!と、満面の笑みで鮮やかに笑った。

一完


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