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人生

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#小説

やさしさは厳しい

やさしさは厳しい

獣を殺す罪、植物を屠る罪。

原罪から逃れる人類の戦いは続く

自殺未遂

自殺未遂

男は人生に失望し、希望を探すゆとりもなくなって、

しかし、死ぬ勇気もなくて二階から飛び降りた。

高速道路でも聞いたことのない加速が耳を叩き、

男は両の足で着地した。

背中にも痛みがあったが、足を脱臼、かかとを粉砕骨折し、

自分で呼んだ救急車で運ばれた病院で整復を受けた。

男は1か月両の足をついてはならぬと言われ、

毎日携帯に入れたデスメタルを聞いてイライラを逃がした。

足は細り、足

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大人も青春

大人も青春

1これは忙しい一日のはじまり

ナオコはケントにもたれかかって見上げた。
ケントの日焼けした、鼻筋の通った顔にナオコは微笑み、口を開く
「ケントって平井堅みたいだよね。どうしたらそんなに鼻が高くなるの?」
仏頂面だったケントがへらへらしながら答える。
「毎日、目ん玉押して寝るから彫りが深いんだよ」
ナオコが噴き出す。

シェアハウスの主のサトルがつまらなそうにゲームを辞めてつぶやく。
「ケント目が

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短編小説「紫の龍」

短編小説「紫の龍」

授業が終わり、職員室に戻ったあともまだしばらく、わたしは考え込んでいた。

(よけいな言葉だったかな。あの子を傷つけてしまったかしら……。)

同じ後悔が何度も頭にせり上がってくる。わたしのあのひとことで、あの子が絵を嫌いになったらどうしよう。もう二度と絵は描かない。そんなふうにもし思われたら、わたしは何と言ってあの子を慰めたらいいのだろう。

「片岡先生」

名前を呼ばれてはっと顔を上げた。

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来世を夢見る楽しみと儚さ

来世を夢見る楽しみと儚さ

喜助は衣服もちゃんと着れず、いつもふらふら村を歌いながら練り歩く。

しかし、人々はその歌を愉快に思い、私よりも喜助は人気がある。

私はといえば、村のものにわからぬ学問で身を立て、村を栄えさせた。

しかし、喜助の歌は私の心さえ躍らせる。

どこで覚えたかわからぬが、ドイツ語の讃美歌の、うつくしいところを適当につなげて気持ちよく歌って居る。

わたしに来世があるのなら喜助になりたい。

きっと喜

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