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短歌

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#短歌

ながのには

長野には 感情的な空を隠蔽しようとしてしきれない雲が

シナノスイートの陰影は魚のよう、ひとりひとりの換喩は波立ち

開示だと諭しては浮かぼうとするレジ袋にかお、ひとりの姉が

かたちのない姉へ峡(はざま)の放心と部屋の木軸は映画館になる

明るかったり陰ったりしながら山むこう息を繋いだだれかは姉で
#短歌

ナニワウラウチルヤマノツキチル

海を浮上させて船を沈下させて、絵心がなくふたつのままです(絵具を溶きながら二本の筆で)
うみが出ていくところのそらの隔膜を貫通するのが 内臓を食べる
二本の管が貫通して僕らはきっと生きながらえる川です
すずしからあつしへつたわりますようにしびれ野とよみよわいに浸かる
こども空びとやがてあかつきなる網目越しのは手などと奥をみす会(え)
下車をさそう急いてはLINEの駅近くナニワウラウチルヤマノツキチ

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自動記述の試みとしての短歌

自動記述の試みとしての短歌

会陰部はまだ塞がらない(手のひらの)言葉を覚える以前の海に
ことばを患い落下した翼だけ捨てられている なぜ愛するの
尿(ゆまり)のあとの砂が縮んで添えられる折口のよごと、ものがたり、うた
予感から余寒を導く よごと、ものがたり、うた またため息を吐く
側勒努趯策掠啄磔の順の字画を経巡る風景となれ
花火のように打ち上げられたその頂きで青いひとみを海は見開く
子音の砂

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ひとつの遊び

ひとつの遊び

いのちの順番を数える口唇が行列の先の先の先の先の
順番を並べ違える大母の悲しみの腑分け海への遡源
誤読するような月夜の皿の上の魂はときに名前をもたない
道の罪を頭蓋を押さえトリガーへ指を差し入れ塔が崩れる
譲歩され整えられる距離にだけ道はあなたの添付を許す
水だけで大丈夫ですの触れ込みを連れ帰っては名前をつける
咳をする投薬をする瞬きのその度いつも小石を投げる
長靴のひとは言葉

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かいわれの花

かいわれの花

曇り日に見覚えがあって眼で辿る向かいに置かれた赤いケースを
斜め前に出迎えているわたくしを遮る仕掛けの誰かの人かげ
二回目の海道を渡り橋桁のひかりのすがたに招かれていた
鳥 二回目という海道のその先の雫(しずく)のような大人に会いに
ちぎられたパンのふたつの過不足をひとりと過ごす穂のような 鳥
拭えない 湾曲をする橋と橋を繋いでみても闇をとぶ鳥
鳥 磔の木の正直な直線と途切れる

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ゆひ ゆき たや

ゆひ ゆき たや

ゆひ ふき たや 底翳の星にもたらした次頁の次頁の次頁の
腹のなかにトリチウムだけを温める孵化しなくても裂け目は叙事詩(エピック)
ガラス越しの点滅信号、論文を綴ればふいに詩は隆起する
からだに気孔は九つポエジィは微風や鳥と関係をもつ
またきみの後始末にすぎないけれど目隠しのつぎの林檎を剥いてる
白濁の眸を与えられている病葉の穴から妖精の距離へ
麦の穂の あひ あみ あえ 

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短歌的実験(5)

短歌的実験(5)

風景の骨として上下する、いつも、からだを揺らす水平線が
切り取った人差し指の腐敗する時間は青く魚群のように
落下する少年少女、海遊は「盲目駅」へとふたたび戻る
水の中で花はつぎつぎ燃えはじめ罪状だけが燃えずにのこる
海岸で拾った骨の潔さ詰めたらきれい、恋人がいた
夜間飛行する蝶の話を始めよう罪人として生まれて
消息は途絶えてしまった裏庭を掘り進めればガラスの破片
孵化をした満

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短歌的実験(4)

短歌的実験(4)

素性の知らぬ背骨をすっとなでるとき感情論は火事の話に
円筒形の器にふたつ穴を開け心臓が土になるのが最後で
首筋の影を擽る舌先の瓢塚ひとつ肌が冷たい
おんなと一緒に患部のなかに蕩けては秋の写真が黄ばんで写る
筐体の壁をすべすべに磨き上げ蜜蜂はとまることができない
閂はスポンジ状に、表までよろけるように、蕩けるパドック
ベランダからの海、靡き寝の切れ端が盗んだことばのように吹かれ

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短歌的実験(3)

耳のなかの海

まだ海を知らない山羊が午後二時のプールに肩甲骨を浮かべた
やわらかい海を包んだ赤玉を終わったからだの膝に並べる
づがいこつまだやわらかいころだったそらへ吹かれるあかいセロファン
海のない船着場からふるさとの夜を通って花弁に触れる
ひるま食べた果実の匂いをさせながら地肌の翅が海へと曲がる
転がって転がりつづける思い出が凹面鏡のなか(ゆるされない、される
一ツノ沈黙シタ火事ヲ愛シテハ

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実験的短歌(2)

実験的短歌(2)

こにこに そこにこ にほいあい ほのかに ほのさきつきの やみのほたるの
もひやけのしりしりさしり島のこと鳥しふるあめのさとふるゆきの

ひとではないひとのしぐさがひとらしい紅いたまごを飲み込む母は
半島のうらがわの胸のあたりまで鳥の遅刻のかかわりあえば
ひとの家の匂いは渦巻貝のなか岬のさきへふたり曳舟
まだ眠る喫水線の上下する体液はすこし濁っているが
擬態する母の翅へと滴

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実験的短歌(1)

実験的短歌(1)

焦点をすこしずらせば影像とその人物が吊り下がっている
川面へと砕けるひかりが脱皮するいつまでぼくをつづけるのだろう
貴婦人のようなつぼみに添えている鳥が初めて空を飛んだ日
飛行機の墜ちた日のこと海岸に耳の打ち上げられた日のこと
眠れない小鳥とともに春の夜は花粉を肺の奥まで吸い込む
ペリカンの空に守礼の浮かびきて骨盤のなか綿布をたたむ
生まれなかった姉の名前をなぞりつつ血の染みる

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実験的定型詩(1):短歌

実験的定型詩(1):短歌

鉱物的言語
が胃内に取り
込まれ
周囲の空
の噂をはじめる
万年筆の読点
として一匹
の蜂を捕らえ

あなたと比べる
照らし出す透明
な青い飴玉が転がり続けてひたい
に落ちる
驀地(まっしぐら)に字を書く
ように切り倒す
ようにわたし
が一行であ

改行さ
れ瞳を抉り死体
には動かないひかり
の実が生り
はじめる
#短歌

刻々に近づく

刻々に近づく

伝染病の骨を埋めて噴き上がる噴水塔が建つ海綿に
窓辺から不眠の鳥を放鳥し明滅している星の呼び鈴
トリケラトプスの共同墓地から立ち上がる溜息吐息の通風口が
恋人の匂いにあした眠るとき曲がった虹を青ざめる乳
澄明を内に閉じ込め鳥の眼がうつくしいものを次々殺す
うつくしくひからない鏡のなかのショッピングモールで買いそびれる
象徴的に聳える椰子の撓む音プテラノドンのため息に似て
通気筒

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再現

再現

道のなかで共になりその手のような、木と対になりくだり終えれば
綻びの笑顔を差し出されたときのどちらかの腕を空の鳥から
見せられる画面の滑らかさを滑りいつか手放すことばを使う
道のあとへついて行くのが決められたからだのなかの木の実のなかの
欄干に触れるとすこしざらついてどちらかが譲る日の岸の降り
なかに住むひとの囲いの静けさが手から離した家族に置かれる
どちらかの腕なのか空にある肘からつな

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