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10日間の人間生活。ドイツ生活のぼやき - 6

女性なら分かる方も多いかもしれないのですが、わたしには人間らしく生活できるのが月に10日ほどしかありません。病気なわけではありません。PMSやPMDDといった月経前症候群に悩んでいるためです。

話を始める前に、この記事の内容はすべて「わたしの場合」であることを強調しておきます。



「月経」と言うと、生理の1~2日目に重い症状が出がちというのがよく知られている話かなと思いますが、わたしの場合はその後も1週間ほど血液不足が原因なのか、あまり元気に動くことはできません。しかし、最初に書いたPMSやPMDDというのは、生理「中」の話ではなく、生理「前」の話です。

身体が血液を排出し始める10日ほど前から、わたしの下っ腹や胃はキリキリ、あるいはズキズキ痛み始めます。眠気も増し、腰や頭が痛むこともあり、身体はかなり浮腫むので長い間座っているのも痛みでつらいし、朝起き上がるのにも小一時間かかることもあります。自分が自分ではなくなってしまったかのように、頭の中に靄がかかったようになり、深く長く物事を考えることが難しくなりやすいです。

どうしても集中したいときは、意識して頑張ればなんとかなることが多いので、仕事などはこなすことはできますが、そのあとの反動がひどいです。反動とは、たとえば無理をした後に寝込んでしまったり、精神面で極度に落ち込んでしまったり、あるいは生理中の痛みが、生理前に無理をしなかった場合の「ぐったり寝込む痛さ」から「泣いてしまう痛さ」に変わってしまったりもします。


一番つらいことは、精神的な落ち込みです。PMSとは、すでに述べたような身体的な症状が月経前に現れるものとのことですが、PMDDに該当する人は、それに加えて、様々な精神的な苦痛、わたしの場合では特に「希死念慮」、つまりこの世から消えてしまいたいという感情に苦しむのです。鬱なのでは?他の精神疾患があるのでは?と思うかもしれませんが、生理が始まって血が流れ始めると、生理痛などはあるのにもかかわらず、ぴたりと死にたくなくなるのが特徴です。

わたしは絶対に自分で自分の命を終わらせることをしないと、数年前に強く誓ったのに、それでもこの期間には頻繁に「自分はダメだ」「生きていても意味がない」「死んでしまいたい」など自分の生を否定する言葉や感情が頭なのか心なのか、「わたし」すべてを支配するのです。

もちろん四半世紀以上生きてきて、まったく対策がないわけではありません。なるべく身体を安静にして、ネガティブな感情が湧いてきても「これは臓器のせい」「自分の意思ではない」と自身に言い聞かせるようにしています。そういった症状に良いと聞いたハーブティーやサプリメントはすべて試しているし、ちょっと汗ばむかもと思っても絶対に身体を冷やさないようにして、腰の痛みを少しでも和らげるために必死にストレッチをしています。食べ物にも気を遣って、必要なら入眠を助けるサプリメントも使って、とにかく「うっかり」命を落としてしまわないように、細心の注意を払って生きています。

生理前の10日間と生理が始まってからの約10日間は、そうやって少しでも人間らしくいられるように、自分の身体のことばかりを考えて過ごしており、これが毎月繰り返されます。合計20日間が生理に支配された生活であることを考えると、わたしが自由に快適に、オンナではなく「人間」として生きられるのは、月にたったの10日ほどというわけです。


こういった重い症状について話すと「ピルを飲んだら?」とか「そんなにひどいなら病気かもしれないから婦人科へ」など言われますが、どちらもすでに試しています。ピルは身体に合わず、5分も座っていられないほどの過度な浮腫みなどの症状が出て、処方してくれた医師から紹介された大きな病院で精密検査をした結果、血栓ができる恐れがあるとして、使用を中止しました。ドイツに来てからも諸々の症状に悩まされて婦人科に行きましたが、身体に異常はなしとのことでした。

いろいろと試しましたが、最終的には、わたしは症状が重く、痛みにも弱い方なので、人より生理をつらく感じるのかもしれないと受け入れて対処しています。



新型コロナウイルスに感染した男性の友人が、後遺症で「頭に霧がかかった状態が続く」「でも、あなたには分からないでしょう?」と言ったとき、きっと生理前のあの感覚に近いんじゃないかなと思ったのですが、言っても伝わらないだろうからと黙って聞き流しました。

夫や仲の良い男友達を見ていると、1か月のうちに「自分の身体に支配されて振り回される」という時期がないように見えます。もちろん他人の身体や心のことは勝手に推測すべきものではないと分かってはいますが、そんな彼らを見ていると、どうにも羨ましくてたまらなくなることがあります。コンスタントに好きなことを頑張れる、自分の努力次第ですべてを変えられる。わたしも男に生まれたかったと、何度思ったでしょうか。

そんな愚痴を男友達にすると、たいてい「男だって大変だ!」と口を尖がらせて言われますが、中には「生まれ変わったら女の子になってみたかったのに、きみの話を聞いていたら男のままでいいかも」と話してくれた人もいました。わたしからしたら、何を言おうとどうせみんな男性でいられるのだから、羨ましいものだという感情しかないのですが、こうやって男性への羨望が強まるのも、おそらく特徴的な症状なのです。

彼らの名誉のために補足しておくと、体調が悪いときにどうしても変更できない約束があれば、基本的にわたしの方から体調が優れないことを事前に伝えるので、休憩をしたり歩く距離を減らしたりと配慮してくれます。夫も湯たんぽを用意したり、家事をしたり、栄養のあるものをかき集めたり、マッサージをしたり、頑張ってくれています。みんな本当に優しい人たちなのです。



望んだわけでもないたったひとつの臓器のせいで!という気持ちと、子孫を残せると期待してせっせと働く可哀そうな臓器……という気持ちが混在していますが、これからもしばらく毎月の10日間を噛みしめて生きていくことになりそうです。

ところで、この救いの10日間の間に風邪なんか引くと……
健康管理には細心の注意を払うしかないですね。

もし同じように悩まれている方がいたら、どのような対策をしているか、どう向き合っているか、あるいは愚痴などをコメントしてくださると嬉しいです。生きる励みになります……。


写真:2018年、ウィーンにて撮影。

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