片山透

宮崎住まいのライターしてる女子です。

片山透

宮崎住まいのライターしてる女子です。

マガジン

  • 僕たちの街の風景

    埋もれている本当の意味を、誰もがその街の中に見つけられることを信じて。3話完結。

  • 風の吹くままに

    正常で在り得ない奇跡を待つのと、狂っちまって死ぬまでここに居るのと、あんただったらどっちを選ぶ?4話完結。

  • 今日の居場所

    「今日」の居場所は何処にあるんだろう、それすらも分からないままに、生きている。4話完結。

  • 失くした現実

    もうすぐ見えると思いますよ、太陽が東に沈んだら。4話完結。

最近の記事

このまま世界が終わればいいのに【6】

「東京から外に出たことないんだよね。せいぜい埼玉と神奈川くらい。千葉県は田舎なんだっけ。」 「千葉も栄えてる場所はちゃんとあるよ。そういう意味では埼玉県も神奈川県も同じようなもんだよ。」 「でもさ、北関東は田舎なんでしょ。前にテレビで言ってた。」 「まあ…これだけ道が広いから都会だとは言えないのが正直なところかな。」 僕と文月は栃木県を目指して車を走らせていた。 とはいえ、栃木県なんて僕だってあまり足を運んだ覚えがない。 行ったこともない場所を目指して車を走らせるのは、カーナ

    • このまま世界が終わればいいのに【5】

      文月が僕と付き合うと強制的に決めた日から、文月は援助交際という行為をしなくなった。というか、僕が止めた。 「彼女が身体を売って生活しているとか、そんなのは僕でもさすがにメンタルにくる。」 そう言って文月には援助交際を辞めさせた。もちろん、文月は僕のその言葉に大喜びをした。 「え、何それ、それって大好きな彼女にそんなことさせたくない、っていう恋人的な意味での言葉だよね?」 そう言って満面の笑みで目をキラキラさせる文月に呆れながら、 「大好きな彼女にね…今日出会ったばっかりで大好

      • このまま世界が終わればいいのに【4】

        文月のアパートに着いた。 「文月、着いたよ。」 と声をかけると文月は不機嫌そうに眼を覚ました。 「あれ…もう着いたの?っていうか私いつの間にか寝てた…。」 「もう2時過ぎてる。帰ってすぐ寝な。」 「寄っていかないの?」 文月は寝ている間に少し乱れた髪の毛を手櫛で直しながら僕を見ていた。こうしているとただの18歳の女の子だ。まだ18年しか生きていないのに、僕にも勝るくらいに色々なことが人生で起こっただろう。その中での愛情に対しては、文月は誰よりも敏感で、必要以上に求めてくる。

        • このまま世界が終わればいいのに【3】

          やや速度を上げて走っている僕に、文月が声をかけた。 「ねえ、ここどこ?どの辺?」 「千代田区。」 「千代田区ってローソンしかないの?」 急におかしなことを言う文月に僕は目線を寄越して、 「そんなことないだろ。」 というと、文月は流れる外の景色に目をやったまま、 「本当によ。ほら、あれもローソン。さっきからローソンしか見ないんだよ。何かそういう縛りでもあるの?千代田区って。」 と不思議そうな顔をして窓の外を見ている。 そういわれて僕も注意して外の様子を見ていると、確かにローソン

        このまま世界が終わればいいのに【6】

        マガジン

        • 僕たちの街の風景
          3本
        • 風の吹くままに
          4本
        • 今日の居場所
          4本
        • 失くした現実
          4本

        記事

          このまま世界が終わればいいのに【2】

          文月と出会ったのはもう2年も前だった。僕がたまたま残業のせいで終電を逃してしまい、タクシーを探していた時に 「お兄さん、何してるの?暇なの?」 と、やけに明るい口調で女の子に声をかけられた。派手なその子の身なりを見て、今どきの若い子そのものだと思いつつも 「終電逃してね。タクシー探してるんだけど。」 と答えると、女の子は僕の手を掴んでから、そっと耳元で 「安くするよ?ちょっと寄っていこうよ?」 と囁いた。 「それって…僕が君を買うってこと、だよね?」 すると女の子はとびっきり

          このまま世界が終わればいいのに【2】

          このまま世界が終わればいいのに【1】

          「ねぇ、奈良皆さん。ノストラダムスの大予言知ってるよね?」 文月がファミレスで夕飯を食べている時に、硬いステーキ肉を切るのを苦戦している僕に聞いてきた。 「1999年の?もちろん知ってるけど…何でまた唐突にそんな昔の話?」 文月はそんな僕の様子をじっと見つめた後、自分のハンバーグを口に運んでから言う。 「その時さ、奈良皆さんって何歳だったの?」 「1999年だろ?うーんと…」 突然の質問に僕は現在の2023年から逆算する。1999年は24年前だ。 「9歳かな」 9歳なんてとん

          このまま世界が終わればいいのに【1】

          もしも

          自分が死んでしまったら、彼はどうするんだろう? どう思うだろう?泣いてくれるだろうか。 ユヅキは夕方の街の中、ひとり俯いたままぼんやりと歩いていた。すれ違う人達は楽しそうに笑い何かに希望を抱きながら前に進んで行く。自分を待ち受けていた現実を思い出すと、ユヅキはまるで自分だけが別の世界に居て、前に進めずにただ暗闇の中を彷徨っているような気分になった。 私…何もかも終わりなのかな…。 ふと顔を上げてみると、ビルとビルの合間に見える空が赤く染まっていた。あまりにも綺麗な夕暮れ

          一番可愛い彼女

          あるとき突然、彼女が言った。 「ね、はいこれ。」 彼女は僕に手鏡を手渡す。 意味の分からない僕は、 「え?なに?」 と聞き返した。 「いいから。この鏡で自分の顔見て。」 「なんでまた急に?」 「とにかく見てってば。早く。」 僕は訳の分からないまま、渡された手鏡で自分の顔を見た。 そこにはいつもの見慣れた、冴えない自分の顔が映るだけだ。 「見たけど?」 と僕が言うと、彼女はつまらなそうに 「うーん、いまいちだったなあ。」 と、僕の手から鏡を受け取る。 「何がいまいちだって?」

          一番可愛い彼女

          memory

          人間の記憶なんて何も確かではなく、途切れ途切れに思い出すものはどこかしら、現在の風景と混じって都合のいいように塗り替えられてしまうものだと、僕は思っていた。
だから、思い出というものはいつだってあてにならない夢のようなものだと、そう思っていた。
 
でも、本当は違った。
 
夢は夢であり、現実は現実であり、現実の思い出は確かに自分の記憶の中に佇んでいてくれる。それが時間が過ぎるとともに霞んでしまっても、その面影だけは色褪せないままにあった。 誰だか忘れてしまった人たちの、い

          約束のない日常

          日が沈もうとして太陽が空を真っ赤に染める頃、ふたりは歩道橋からその様子をじっと見つめていた。 ただ、夕日が沈むのをじっと。 「約束をすることをやめようか。」 彼はちらりと彼女のほうを向いて言った。 彼女は、どうして?と彼に訊ねた。 歩道橋は家路に急ぐ人たちで交互していた。 「例えば何か約束をしたとするとね。」 「うん。」 「それを守る義務が生まれるけど」 「うん。」 「見えないところで負担も生まれるんだよ。」 彼女は彼の横顔を見直した。 「だから…。」 彼は額を拳で叩く。彼の

          約束のない日常

          僕たちの街の風景【1】

          街が黄昏色に染まる頃には、街の誰もが1日の終わりを振り返りもせずに手放して行く。 君はそんな風な人たちをまるで最初から何も知らないかのように見向きもせず、寂しい瞳でただ黙って、立ち止まり通り過ぎて行く影たちだけをじっと見つめていた。 僕はそんな君を見つめていることが好きだった。どこかの店の窓から外を眺めては、君はたったひとりでその場に取り残されてしまったような顔をして僕に視線を投げる。 誰もが夢ばかり見たがる、こんな街の中で自分の姿を探すことなんて、出来やしないのに。

          僕たちの街の風景【1】

          僕たちの街の風景【2】

          街の中の誰もが求めている本当の姿なんて、きっと僕たちの目には映らないものなんだろう。 それは多分、とても悲しい色をした風景でいつの間にか出来上がった沢山の色の中に紛れ込んで、誤魔化されてしまっているんだろうから。 ひとりひとりにひとつひとつの生きる術があって、すれ違うたびにその生き方の意味が混じり合って通り過ぎて行ってしまう。 心の中でずっと大切にしていた思いがあったとしても、それは多分僕たちには叶えることは出来なくて、いつの間にか気付いてみれば、そこには何もなくなってい

          僕たちの街の風景【2】

          僕たちの街の風景【3】

          何かの物事に対しての表の面があるとすれば、そこには必ず裏の面が存在しているはずだった。 街の風景がとても生き生きときらびやかに、誰もが目を奪われるような顔をしていたとしたって、もしかしたらその裏側ではとても哀しい風景を生み出しているのかもしれないし、それは誰も否定をすることは出来ない。 寂しい街だとしても、それが本当の姿だったなら。 それを僕たちは知らなくては大人にはなれない。 大人になるということは、現実の表と裏を知るということだから。 夢を見ていたいと思っていても、

          僕たちの街の風景【3】

          メッセージ

          何も聞こえなかった。何も僕の元には届かなくなってしまった。そして思う。 そこにあるものが、例え全て本当の姿ではなかったとしても僕らにはそれすらもきっと、 永遠に思える想いが見えるような気がしていた。嘘だらけの言葉に包まれていても。 風は訪れては去って行き、また別の風が訪れる。そして、やっと僕らは理解する。僕たちがふたりで居続けられなかった理由を。 僕たちが生きていたあの街やあの場所は、僕たちを決して受け止めていなかったのだと。 ふたりには、ふたりだけの場所がある、そうい

          メッセージ

          僕→君

          今日、久しぶりにこの街に来たら野良猫がいた。人懐こい猫で足元に擦り寄ってきた。 少し撫でてやっているとき、そういえば君は猫が好きだったな、と君のことを思い出した。 何をしていても、何を感じても、僕は君のことを思い出してしまう。 全てはただのきっかけに過ぎずに、記憶は過去にあった優しさや儚さをもう一度鮮明に打ち明けてくれる。それは、頭にではなくて胸の奥深くに。 それを時には愛しく思い、時には痛く思う。優しい記憶をこうして、ただ思い出そうとするだけなのに、苦しく思ってしまうこと自

          砂時計が落ちるまで【4】

          玄関のチャイムを押すと、しばらくしてからゆっくりとドアが開いた。久しぶりに逢った彼女の母親は、僕の記憶の中の姿と何ひとつ変わっていなかった。とても優しい表情、佇まい。 「お久しぶりですね、いらっしゃい。」 そう言って、彼女の母親は僕に微笑んだ。僕は何となく気まずくて、 「お久しぶりです。」 と言って俯いた。 「上がってください、寒いでしょ?」 リビングに上がると、そこは昔と何も変わっていなかった。暖かい木調の家具と、綺麗に整頓された部屋の中。12階からの窓の外の眺めは記憶と同

          砂時計が落ちるまで【4】