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memory

人間の記憶なんて何も確かではなく、途切れ途切れに思い出すものはどこかしら、現在の風景と混じって都合のいいように塗り替えられてしまうものだと、僕は思っていた。
だから、思い出というものはいつだってあてにならない夢のようなものだと、そう思っていた。
 
でも、本当は違った。
 
夢は夢であり、現実は現実であり、現実の思い出は確かに自分の記憶の中に佇んでいてくれる。それが時間が過ぎるとともに霞んでしまっても、その面影だけは色褪せないままにあった。

誰だか忘れてしまった人たちの、いくつもの言葉。霞んでしまう誰かを忘れてしまっても、その誰かの言葉は忘れられない。
 
歩道橋から見えるほんの少しの夜景は、微かに心の中のわだかまりを溶かしながら、車のブレーキライトを僕の目に映して、今日の終わりを見送っていった。


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