僕たちの街の風景【2】
街の中の誰もが求めている本当の姿なんて、きっと僕たちの目には映らないものなんだろう。
それは多分、とても悲しい色をした風景でいつの間にか出来上がった沢山の色の中に紛れ込んで、誤魔化されてしまっているんだろうから。
ひとりひとりにひとつひとつの生きる術があって、すれ違うたびにその生き方の意味が混じり合って通り過ぎて行ってしまう。
心の中でずっと大切にしていた思いがあったとしても、それは多分僕たちには叶えることは出来なくて、いつの間にか気付いてみれば、そこには何もなくなっている。胸の中に、穴が開く。
「正しいことがあったとしても、それは本当に正しいのかどうか、なんて。実際は自分の中の基準が間違いだって思えばそれは間違いだってことになるじゃない?」君の強い視線が、国道を過ぎていく車たちのライトを捕まえようとしていた。「結局、真実だって言っても…分からない、私には。」
遠くでクラクションの音がした。
寂しい、孤独な音。
「この世界の中でひとつでも間違いないことってあるのかな。誰もが疑わずに、信じられるものって。」
「あるよ、ひとつだけね。」
僕がそう答えると、君は僕の顔を見つめてから聞いた。
「それって何?」
ほんの少し、風が吹いた。
君の短い髪が揺れた。
「誰にでも平等で、誰もがそれを信じて認めているもの。今も過ぎてる『時間』じゃないかな。」「時間…。」
「どんなものを信じて、どんな生き方を選んだとしたって時間だけは誰にでも平等に正確に時を刻む。それは誰にも変えられないし、どんなに努力したって背くことが出来ないからね。」
「…いつか、時間を巻き戻したり出来るようになるのかな?」
君はそう言って夜空を見上げた。
「分からないけど。そうなったら全ては不自然になるだろうね。」
車のライトは途切れることなく街の灯りとして走り続けて行く。この街の中の何が嘘で何が本当でも、時間がもしも絶対ではなくなれば、全ては不自然で出来上がってしまうだろうから。
「本当と嘘の境目がなくなる?」
「うん、そういうことになるだろうね。」
僕は君の澄んだ強い眼差しに視線を戻した。
「そんなのは、冒涜じゃない?」
君はそう言って、真面目な顔で明るく光る街の灯りに視線を寄越した。
そこにあるものは作り物の灯りなのかもしれないけれど。僕たちが作り上げる本当と嘘の境目は、目の前に積み上げられていた。
<to be Continue>
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