褪せる青藍

ぱっと映える青色は鮮やかで、輝くくらいに眩しい。眩むくらいのそれだ。青色はうつくしい。それが、青春の色だ。特権的な若さの色だ。生涯でいちばん眩しくて、甘酸っぱくて、それでいてもう戻れない色だ。

お酒を飲むようになりました。
煙草を吸うようになりました。
会社に所属して、ほんの僅かなお金を貰うようになりました。
税金を納める側になりました。
友達の友達が結婚していく様を見ました。

私は大人になった。

健康で文化的な最低限度の生活。ほんとうに最低限度の。通勤ラッシュ、オフィスカジュアル、安物の香水、半額のお惣菜、副業、発泡酒。たまに文字を書いて、歌を歌って、頑張ったねと甘やかしてラーメンを啜る。これがいまの世界のすべてだ。鮮やかなんて到底言い難い。友達は多くはない。幸せかは正直、わからない。相対的にはすごく幸せで、相対的にはすごく不幸せかもしれない。しあわせは青天井だ。尺度はもはやここには無い。休日は眠る時間が多くなった。夢の中の世界がすべてなら、或いは良かったのに。楽しいことが減って、考えなければいけないことが増えて、逃避するために思考を濁していく。言葉を紡ぐ部分や、別世界を描く部分に靄がかかって、時間だけが規則的に磨り減っていく。つまらない。つまらなくなった。見えている世界が、生きている世界が、創り出した世界が、何より、自分が。色褪せていくことが、簡単に分かった。味のなくなったガムみたいだ。何もしないで生きていたい。できるだけ早く終わりたい。どうせドラマチックでも無いのだから。深夜3時、明日がつらいなんて、分かっているのにな。そうして灰色になる。灰色の日々を、只々、重ねていく。作業みたいに。

私は大人になった。
鮮やかな青藍は褪せてゆく。

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