小亀令子

2022年から短歌をつくりはじめました

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2022年から短歌をつくりはじめました

記事一覧

ユトレヒト

 2019年の長い夏休み、わたしはパリにいた。せっかくヨーロッパにいるのだから、そのままヨーロッパを鉄道で旅してみたいと思い、ユーレイルパスを買った。7日間、31の対…

小亀令子
2か月前
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祝辞

去年の三月、中村佳穂のライブに行った。働き始めて四ヶ月が経った頃で、慣れてきたとはいえ、覚えるべきことはまだまだあって、仕事終わりのほどよく疲れた頭と体でオーチ…

小亀令子
3か月前
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2023年の掲載短歌

『ねむらない樹』 vol.10 テーマ「電」もしくは自由 内山晶太選 粉々になったわたしでモロッコの砂漠に飛んでいく眠るから 毎日歌壇 加藤治郎選 さざ波ができたり影…

小亀令子
6か月前
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かまぼこの形の舟になれるならみるべきものはへんな夢だよ/谷川由里子

「かまぼこの形の舟」を実際に見たことはないけれど、板の上に乗っている紅白のかまぼこは、たしかに舟のような形をしている。本当に存在するのかもしれないなどと思いつつ…

小亀令子
7か月前
2

紙詰まりを放置されたるコピー機のつめたき胸へ手を差し入れる/北山あさひ

誰も気づいていないのか、気づかないふりをしているのか、コピー機に紙が詰まったままになっている。そのエラーを解消しようとする最初の人が、コピー機の内部に手を突っ込…

小亀令子
7か月前
7

2022年の掲載短歌

57577展 テーマ「町」 鈴掛真選 半分のわたしはきっと喧騒の旧市街をまだ彷徨っている 毎日歌壇 加藤治郎選 他者に紐づけられているおそろしさ 双子のパンダを見ず…

小亀令子
7か月前
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ユトレヒト

ユトレヒト

 2019年の長い夏休み、わたしはパリにいた。せっかくヨーロッパにいるのだから、そのままヨーロッパを鉄道で旅してみたいと思い、ユーレイルパスを買った。7日間、31の対象国を鉄道で巡り放題というチケットだ。ドイツ、チェコ、オーストリアを回ろうと思い描いてはみたものの、詳細な旅程は決めていなかった。無鉄砲なバックパッカー旅になるだろうということにとてもわくわくしていた。

 しかしその夏、購入したユー

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祝辞

祝辞

去年の三月、中村佳穂のライブに行った。働き始めて四ヶ月が経った頃で、慣れてきたとはいえ、覚えるべきことはまだまだあって、仕事終わりのほどよく疲れた頭と体でオーチャードホールへ向かった。

開演すると、ホールは豊かな音と光で満たされた。ここに来ることができて本当によかったと思いながら、三階の正面の席でわたしは曲に合わせて手を叩いた。左隣にいたクールな見た目の男女二人組はゆったりと聴いている一方で、右

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2023年の掲載短歌

2023年の掲載短歌

『ねむらない樹』 vol.10 テーマ「電」もしくは自由 内山晶太選

粉々になったわたしでモロッコの砂漠に飛んでいく眠るから

毎日歌壇 加藤治郎選

さざ波ができたり影を浮かべたりきみの顔は絶え間ない湖
(4.18)

毎日歌壇 水原紫苑選

丘に立つ美術館には窓があり水平線が絵画のような
(3.27)

水底のように見た夢 制服の代わりに青い服を着ていた
(4.3)

振り向けば教会の戸が切

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かまぼこの形の舟になれるならみるべきものはへんな夢だよ/谷川由里子

かまぼこの形の舟になれるならみるべきものはへんな夢だよ/谷川由里子

「かまぼこの形の舟」を実際に見たことはないけれど、板の上に乗っている紅白のかまぼこは、たしかに舟のような形をしている。本当に存在するのかもしれないなどと思いつつ、でもこの際、そんな形の舟が本当にあるのかどうかはどちらでもよい。これは「かまぼこの形の舟になれるなら」という仮定の話だからだ。仮定の話なら、存在するものにもしないものにも、何にだってなれる。

何にだってなれるにしても、かまぼこの形の舟に

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紙詰まりを放置されたるコピー機のつめたき胸へ手を差し入れる/北山あさひ

紙詰まりを放置されたるコピー機のつめたき胸へ手を差し入れる/北山あさひ

誰も気づいていないのか、気づかないふりをしているのか、コピー機に紙が詰まったままになっている。そのエラーを解消しようとする最初の人が、コピー機の内部に手を突っ込む。そんなありふれた光景がこの歌では詠まれている。

わたしも先日、職場で同じ状況に直面した。コピー機に近づくと、「エラー」の赤い光が点滅していた。いつからこの状態だったのかはわからない。わたしは給紙トレイを取り外して、空洞に手を入れた。よ

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2022年の掲載短歌

2022年の掲載短歌

57577展 テーマ「町」 鈴掛真選

半分のわたしはきっと喧騒の旧市街をまだ彷徨っている

毎日歌壇 加藤治郎選

他者に紐づけられているおそろしさ 双子のパンダを見ずに帰った
(6.14)

暗闇にズームしていくだけの夢 街は遠くのサイレンで満ち
(7.4)

「てきとーに生きればいい」が口癖の父と見た羊の毛刈りショー
(7.12)

ほろほろと眠ったままの指うごくピアノをじょうずに弾いている

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