#小説
〈アンタークチサイトが融ける夜〉
「南極石は二十五度で融解する。今夜は熱帯夜だ」
透明な液体の入った瓶を、テーブルに置いた。薄暗い部屋。
話を聞いているんだかいないんだか分からない知冬は、闇夜に光る稲妻を見つけようと夢中になっていた。手の中で回される、小さな天藍石の結晶群。スポットライトのように、それを照らすペンライト。
カナダ・ユーコン産の艶のある結晶面が、光を返し知冬の顔を照らす。その様子はミラーボールを彷彿とさせるが、
〈キクザキイチゲ〉知冬
あれから僕は転職して休みの多い仕事についた。
稼ぎが無くなったので車は手放した。
代わりにあっちこっち行って花の写真を撮りまくる休日を手に入れた。
他にも小説をめちゃくちゃ読むようになった。本屋に並んでいるものからネット小説まで。
それで、見つけてしまったんだよね、彼の小説。
ふらっと旅に出た少女がたくさんの美しい花を見て、それらを写真に収めて、綺麗な瞬間を綺麗なまま永遠に切り取る楽しさを知る話