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春告花

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菊崎知冬と桜井海音の話。小説家になろうやTwitterからの転載。出掛け先での体験をネタにしています。
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#小説

〈アンタークチサイトが融ける夜〉

〈アンタークチサイトが融ける夜〉

「南極石は二十五度で融解する。今夜は熱帯夜だ」
 透明な液体の入った瓶を、テーブルに置いた。薄暗い部屋。
 話を聞いているんだかいないんだか分からない知冬は、闇夜に光る稲妻を見つけようと夢中になっていた。手の中で回される、小さな天藍石の結晶群。スポットライトのように、それを照らすペンライト。
 カナダ・ユーコン産の艶のある結晶面が、光を返し知冬の顔を照らす。その様子はミラーボールを彷彿とさせるが、

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〈春雪〉海音

 仕事が終わる頃に雨が降っていた。スマホを見てメッセージを確認する。
 明日は休日だ。それを把握している知冬に、一緒にご飯を食べようと誘われている。隣の街だが車で飛ばせば大した時間はかからない。ああだこうだ考える前に、気持ちは行くと決まっていた。
 行き当たりばったりな知冬だ。家まで行ってみれば何を食べたいか聞かれ、寒いし鍋がいいと言えばこれから材料を買いに行くと言われた。一人で買いに行かせるのも

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〈散歩〉知冬

「今日はマイペースに行こう」
「いつもマイペースだろ」
 いつもならいつどこへ遊びに行くと前もって決めるけれど、今日はたまたま僕と海音の暇が被ったので、ノープランで僕の家に来てもらった。
 とりあえずくつろいでもらおうと、お菓子とお茶を用意する。
「よいとまけか」
 海音が紅茶に口をつけながらお菓子を見た。僕が自分で食べようと思って買った、よいとまけのはんぶんこ。
「嫌いだった?」
「食ったことな

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〈キクザキイチゲ〉知冬

あれから僕は転職して休みの多い仕事についた。
稼ぎが無くなったので車は手放した。
代わりにあっちこっち行って花の写真を撮りまくる休日を手に入れた。
他にも小説をめちゃくちゃ読むようになった。本屋に並んでいるものからネット小説まで。
それで、見つけてしまったんだよね、彼の小説。

ふらっと旅に出た少女がたくさんの美しい花を見て、それらを写真に収めて、綺麗な瞬間を綺麗なまま永遠に切り取る楽しさを知る話

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〈桜〉海音

どうしてこうなった。
あいつの運転する車に追いつけずに、呆然と見送る。
連絡してくれと教えられた電話番号は使われていないものだった。
「なんでだ」
ぐちゃぐちゃの胸のうちから出てきた声は思ったより静かなものだった。
もう会えない。二度と。
これは裏切りだ。

思い出される今日の思い出。
そう、全部今日のことだ。午前二時に桜の樹の下で出会ってから朝七時の現在まで。
それまでに俺たちは共に飯を食い俺の

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〈海が見たい〉

 逃げ出したくてたまらなかったので、文字通り逃げ出した。
 もう何もかも嫌だ。いくら仕事をしてもボロクソに言われる。なんのために仕事してるのか分からない。いや、生きるためにお金が必要で、そのお金を稼ぐために仕事をしているはずなんだけど、その仕事が原因で死にたくなってきたとか、本末転倒というか。
 とにかくもう嫌で嫌で辛くて苦しくて一刻も早くこの場所から逃げ出したかったんだけど、臆病な僕は定時で無理

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