【経営学の形シリーズ】ドメインの定義(企業ドメイン)
ドメインとは
経営戦略とは、ドメイン(領域)の定義、経営資源の配分、ポジショニングを行うことを前回説明しました。今回はその中でドメインの話をしたいと思います。
前回投稿の経営戦略のピラミッドでは、事業領域と経営ビジョンの一部のところです。
事業実施にあたり、ドメインの定義は重要です。ドメインとは事業領域、生存領域であり、「わが社の事業とは何か?」の問いに答えることともいわれています。ドメインは大きく企業ドメインと事業ドメイン、物理的定義と機能的定義に分かれます。
企業ドメイン
まず企業ドメインですが、全社ドメインともいわれ、企業全体としてどのような領域で活動するかの観点で定義したものです。また企業ドメインは、ホームページや会社案内など対外的に示すことがあります。よって、企業全体の活動とアイデンティティに関連することや、顧客・ステークホルダーなどに認知していただくことも意識します。また、企業ドメインはあるべき姿や経営理念を包含し、経営資源の配分に影響を与えることとなります。企業ドメインは、大きく物理的定義もしくは機能的定義で考えます。
将来の企業のあるべき姿や経営理念を包含している
企業ドメインの決定が各事業への経営資源の配分へ影響を与える
ドメインの物理的定義と機能的定義
ドメインの物理的定義
ドメインの物理的定義とは、具体的な事業内容、つまり製品・サービスの実態に着目し設定することです。例としては、自動車メーカーであれば「自動車」、映画会社であれば「映画」、鉄道会社であれば「鉄道」などモノを中心に定義します。物理定義は、製品などに特化した場合、設定しやすくわかりやすい(明瞭性)がある面は良いのですが、製品等はライフサイクルや寿命があり永続的にその製品を提供できるかという面もあります。つまり企業の将来の発展可能性を志向しづらいということで戦略論からはあまり推奨されないと昔からいわれています。
具体的な事業の明瞭性が高まるメリット
将来の発展可能性が志向しづらいというデメリット
ドメインの機能的定義
ドメインの機能的定義とは、顧客のニーズもしくは提供する価値で設定することです。例としては、鉄道や自動車会社であれば「輸送」、映画会社であれば「エンターテイメント」などコトを中心に定義します。機能的定義は将来の発展可能性を志向しやすく、代替手段・商品に対しての適用性や耐性が強いという面があります。ただし、物理的定義と比較して(自動車・鉄道・映画など)事業の明瞭性がぼやけてしまうという面はあります。
代替手段・商品に対しての適用性や耐性が強いというメリット
具体的な事業の明瞭性がぼやけてしまうデメリット
マーケティングマイオピア
レビットによれば、ドメインの物理的定義はしばしばマーケティングマイオピア(マーケティング近視眼)に陥るといっています。これは、顧客ニーズを誤って判断し、求めていない商品・サービス等を提供してしまうことが原因です。よって、現在の戦略論ではニーズ視点に立ち、事業の幅、柔軟性、発展性を考慮した機能的定義でドメインを考えることが重要といわれています。
レビットは、マーケティングマイオピアの事例として、アメリカの鉄道会社を事例に挙げています。1970年代のアメリカでは人や物の輸送への需要が高まり市場が拡大してきましたが、鉄道会社は自らのドメインを「鉄道事業」と定義したまま、鉄道による輸送にこだわり、自動車やトラックなど広い意味での輸送を考慮した「輸送事業」とせず、顧客が離れてしまったと分析しています。ちなみに、日本のJRでは、鉄道以外にもバスや自動車など輸送全体を考慮した機能的ドメインによって顧客ニーズに合ったサービスを提供しています。
ドメインコンセンサス
ドメインは、企業内外の関係者とコンセンサス(ドメインコンセンサス)を得ないと成立・存続はしません。よって経営者の主観ではなく、経営幹部、従業員、株主、社会が理解し納得できることと、顧客ニーズを反映したもので定義するようにします。これが、定着と機能、そして競争優位性をもたらすのです。
つまり、老舗の蕎麦屋が明日から中華料理屋に変わりますといっても常連客は納得せず、離れてしまうでしょう(まれに成功しますが)。
まとめ
今回はドメインのお話ししました。
企業ドメインとは事業領域、生存領域である
将来の企業のあるべき姿や経営理念を包含している
企業ドメインの決定が各事業への経営資源の配分へ影響を与える
ドメインは物理的定義、機能的定義がある
物理的定義にこだわり顧客ニーズを考慮しないと、マーケティングマイオピアに陥る(マーケティング近視眼)
ドメインコンセンサスを得ることが重要(経営者だけの想いではない)
次回は事業ドメインのお話をしたいと思います。