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【週末投稿】四季がある日本のバナナ #12(デグレードとの闘い)

熱帯で育つ現地のバナナは、通常寒害を受けない。そのためハリケーンが来なければ何もしなくともスクスクと育つものである。巷で良く言われるのは葉の数を数えて、40枚以上に達すると開花すると言われている。
しかし、四季のある日本(本州)ではそうはいかない。

桜の咲く頃から秋までの期間で言うと、それなりにバナナは順調に育つ。しかし春一番や、季節を問わない近年の突風や台風などにより、風に弱いバナナは仮茎が折れてしまう事もあるし、露地越冬出来たとしても春先に出始めた葉などは奇形が多く、熱帯地方の様に順調に育たたない期間があるのだ。

そのため、全て発生した葉の数を数えても、結局は50枚目、60枚目、70枚目になっても、いつまでも開花しない事がざらに起きるのだ。

上の写真は、家で越冬して春に路地に植えてしばらく経った状態のバナナ。
1)の葉は昨年秋に家に取り込む前の葉で現在は枯れている。2)は露地に植えてから出てきた初めの1枚。3)はその後に出てきた葉である。

1)の葉規模であった前年の秋から比べると、2)、3)は明らかに規模が縮小している。すなわち、冬を超えたことで株の元気度や規模感が縮小していると見なすことが出来る。これを日本のバナナ愛好家の間では デグレード(degrade:劣化)と呼んでいる。これは私が流行らせた言葉でもある(笑)。2)の葉は家の暖かい環境の時に、仮茎の中で葉の準備がされていたものが、露地植え後に出葉した為に比較的広い葉が出ており、3)では外のまだ寒い時期に初めて作られた葉のため、さらに小さい葉になったと考えられる。

こちらの写真は家で越冬中の赤バナナで、写真左側に大きな仮茎が映っている。実はこの大きな仮茎は、寒さと日光不足の為に枯れてしまった。その後に根本から写真の様に新たな芽が作られたのだ。左の株は既に葉の数が30枚ほどの累計カウント数であるが、右の小さな芽は同じ株から出てきた芽なので累計すると、31枚目の葉という事になり、これから32枚目のタバコ葉が伸びていると事という計算になる。

上記例は極端であるが、赤バナナは越冬中の環境に耐えられず、デグレード(規模縮小=劣化)してしまい、この株規模であと8枚(40-32枚)で開花できるとは到底考えられない。すなわち本州では、40枚開花説は不毛な説なのだ。

もう少し話を進める事にする。
このデグレードを解決するための研究方法として株規模を数値化する手法は、越冬方法を研究する時に、比較・検討するうえで有効な材料となる。
上の写真の矢印部分は「葉実長」と呼ばれている。バナナが次第に大きくなるとこの葉実長は次第に長くなってゆくので株規模を測るうえでは重要なファクタとなり得る。

しかし、四季のある日本のバナナの場合は、デグレードにより奇形葉が発生するため、葉実長グラフだけでは株規模を正確に測れない。

上の写真は、春の奇形葉の代表例である。
葉実長は長いのだが、横幅が全くない奇形葉である。これを前述した葉実長だけのグラフとしてプロットすると、同じ葉実長の健全な葉と比較が出来なくなってしまう。

そこで日本の場合は、葉実長と葉の幅を掛け合わせた葉面積グラフが株規模を表現するのに最適であると考えている。
実際の葉面積は「葉実長x葉幅x0.6」または「葉実長x葉x0.83」で計算する簡単に算出できる(*参考文献参照)。しかし、葉面積は株規模を測るための比較値なので、パラメータとしては「葉面積x葉幅」の数値の変化を比較するだけで良いと思われる。

こちらのグラフは、家で越冬させて結実したバナナの途中までの計測例である。葉実長の単位は「cm」であるが、葉面積は「葉実x葉幅」として計算したものである。比較すると多少のグラフの違いが分かるであろうか。
春から秋までは右肩上りの成長だが、秋~冬になるとグラフは右下がりのデグレード期間を如実に表している。そして昨年の規模から下がった底から成長を開始して昨年規模を追い抜き、大きくなってゆくのである。

さて上記のグラフをご覧いただくと、2015年と古い資料であることがお判りいただけると思う。なぜこの執筆をしている2019年に最近の資料がないのだろうか? それには理由があるのです。

バナナ研究したての頃は、藁をも縋る想いでいろいろな事を試していた。数値化することもバナナを知るうえで私の成長過程では重要だった。しかし、何年もバナナと付き合い、早朝や休日に観察して、多くの事例に出逢うことで「観察眼」が研ぎ澄まされてくると、数値化する必要性がなくなったと感じ始めたのだ。「自分の育成環境のみ」ではあるが、累積生成葉数で予測するのではなく、感覚で(株の太さ、葉間距離の変化、色など)開花が分かるようになったからなのだ。

自分たちの環境での観察眼が研ぎ澄まされると、計測など必要なくなるという事なのでしょうね。

■参考文献
浜松市立佐久間中学校 植物の葉面積の観察について
Phenotyping bananas for drought resistance

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