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現代川柳新作10句 (2024/01/27)
「玉手箱」
大卒をダ・ヴィンチにする玉手箱
悪意にも膜があるんよ鮪泳ぐ
愛想よく菩薩の服を差し押さえ
ボランティア東寺の不味いうどん食う
ひいき目で見て曼荼羅に縦ノリする
深海のマンホールから柿投げる
しゃっくりに魂が出て桃匂う
マシュマロの王様として海鼠討つ
本棚の中身がポテトサラダとは
納豆を混ぜ一日をつつがなく
2023年自選10首
サロンパス疎らに床に丸まりてあと千年はそのままである
モンスターエナジー・ZONe・レッドブル積まれ机は華やかな壇
唇がむらさきになるだらうからお前は見るな茜さす蛭
人形の口を開きて親不知探すお前のその指づかひ
微塵子の関節痛を思ふ日の仏陀の腕のよく撓ふなり
電卓を傾け幽かなる8の連なりを見る頭痛の夜は
後頭をゆるく吸はせて枕から無色無臭の夢受け取りぬ
ずつと火に炙られお
2023年自選10句
春望の四方の椅子ひたすら磨く
ほとけの指だ落花する
タカラダニ地下の泉を恋うてをり
喪や馬の嘶くたびに吹く熱砂
タバスコを振れぬ前世で西日浴ぶ
釘の穴からとろろかな
村ぢゆうの磁波に嚔るなり不動尊
乾杯を見てゐるやうに凍鶴が
聴診器と心臓を隔てる肉から悪寒が来る
独りで会話している人がBluetoothをしていない
2023年角川俳句賞応募作
「仏忌」
眩暈に失明踊り場の銃で己を撃つ
春望の四方の椅子ひたすら磨く
海苔ひたすら食ふや蛍光灯が唸り
木香に眼のかぶれて通夜を白鳥引く
みな売り切れ仏忌の自動販売機
東京のテトラポッドに経沁むや
恋人と囁き三つ大椿
珈琲を乾してダーツや蘖ゆる
灰皿の拭かれて臭ふ涅槃西風
麗らかや明王の火に佳き木目
釣り針を引つこ抜く夜の山葵かな
灌仏会訊杖は血を覚えざる
蝌蚪や虫歯をいぢくる舌の酒臭き
雲龍のう
角川俳句賞応募作 30句抄
「やがては蝋」 横井来季
スパケディ湯切るしぶきがあまりに春
ひらひらと掏摸は黄砂の航路へと
眼鏡越しに花朧は見えないやうだ
時計の針がセダムのやうに垂れてゐる
大げさにプロテイン振る目高の喪
滝道の自販機曇りゐたりけり
野苺の中にて鍵のやうに芯
クリップボード金具に留める蛾の死骸
ぼちぼちと言ふ唇の五月闇
アイスティーかき混ぜ透明な蛭が
羽蟻唸る丑三つ時のトランプに
歯形のみ白む草笛捨てしの
第五回円錐新鋭作品賞 落選作
「重心」
煙草窩に冬日がちやうどよく塡る
肉欲を象る花八手が遺品
喉飴の粘り気冷ゆる浮寝鳥
曼荼羅や独楽の重心腫れてをり
初晴の湯船に鮫の肋骨
鉄製の墓碑聳え立つ火事見舞
闇汁のQのかたちのぱりぱりす
発育は機械のやうで海豚ショー
納豆や詩を捏ねくれば軽い脳
雪岩の砕かれチェロの烏賊光
寒鯉を街灯に入れ眠らしむ
電球の錆びはじめだす春の昼
陽炎が開きゆく羊肉を切れば
俎板の傷の奥には蜆の眼
小説
第十回百年俳句賞 入賞作
「てのひら」
蝶々や仄かに甘き粉薬
風船は雲で化石となつてゐる
邪神忌の無味無臭なる正露丸
邪神忌や鏡われ亡きときもうつす
邪神忌にちはやぶる蛾のをりぬべし
蜂割れて監視カメラは闇となる
掃除機の持ち手冷たし啄木忌
いつも故郷の味晩春のマクドナルド
チューリップたしか二重瞼(ふたへ)の人だつた
マネキンの吊るされてゐる画廊かな
カーネーション画廊の闇のやはらかく
夏立つや楽器のやうなふくらはぎ
全国俳誌協会第3回新人賞 受賞作
「夢に死す」
春の日の自分の舌打ちに気づく
部屋干しのショーツ華やぐ蜆汁
安吾忌や雨にねばつくクロックス
だべりも飯もベッドの上で春霖雨
うららかがぎゆうぎゆうづめのしらこかな
海苔照るやブルースクリーンの点滅に
ジェンガ崩れてたんぽぽ現れはせぬか
蜂球にプラズマの迸るかな
エイプリルフール説明書が英語
春の夢のぽうとデメニギスの目玉
VANILLAの歌うるさく東風の東京は
アスパラガス鸚鵡は異
第12回石田波郷新人賞 落選作
「薔薇の起源」
春はあけぼの犬の前世を繰り返し
毒殺の春に真紅の蛸を冷やす
箆鹿の角切り落とす夢が雨
ショベルカー掬ふ土には凧の骸
自分にも中指見せてゐる暮春
独白や薔薇の起源をたとふれば
殺されて小蠅の翅の光かな
クッキーの怒りは割れ目麦の秋
扇風機くぐるや海臭き真空
ひまはり枯れて音楽のひとつが水輪
秋愁ふとき睾丸の蜜まみれ
水煮えて、昔の百舌鳥の絶命が
断層の老いを台風圏の黙
胃が曇天ミシ