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2023年自由詩自選5作

「目薬」

白鷺で帰ったあと、
やたらと震えている
ハムカツが
あった 

(現代詩手帖三月号新人作品欄)

「快速・快速」

桜脱毛クリームを
腹に塗りたくる
快速・快速

印刷会社の
隣の
老舗の
ハンバーガーショップ

塗れば塗るほど
速くなる

線路を光速で
走る駅員を
追う光線

熱風に
折れた電柱が
空母に
突き刺さった

いやに
悲しい左耳の
入った
革靴

テニスコートに
疎らに
サラミの
餅つかれて

ビニル袋の
裂かれて
スルメ

人類の
手のひらが
熱くなって

予備校の
入口を
蜂が
うろうろ
している

(現代詩手帖五月号選外佳作)

「春の空」 

見入ると弾創が浮かぶ

(Libro,76 Vol.2)

「聞こえてくる」

熱々のマシュマロを
ウィスキーで流しこむ
浴室から
猫の鳴き声が
聞こえてくる
 
ウェットティッシュを
熱燗で流しこむ
掌から
異邦のサイレンが
聞こえてくる
 
銀時計を
えた濁酒どぶろくで流しこむ
胃の中から
悲しい電波ソングが
聞こえてくる
 
自転車の鍵を
赤ワインで流しこむ
本棚から
私の噂話が
聞こえてくる
 
生まれたての蜚蠊ごきぶり
カルーアミルクで流しこむ
ベランダから
唇の震える音が
聞こえてくる
 
結婚指輪を
ドライビールで流しこむ
母の部屋から
幽かな拍手が
聞こえてくる
 
溶けない小雪を
テキーラショットで流しこむ
天上の廁から
かき氷を作る音が
聞こえてくる

(Libro,76 Vol.2) 

「下町」

財布 濡れながら折れているのか
一円玉が崩れて下水道に流れるころ
しばらく作ってない詩を詠んで
ぽ、ぽ、ぽえむの手触りを知れば
純喫茶に入りたそうに
ガラス窓に足をひらいた蝉の
あざやかな味醂みりんのにおい!

(現代詩手帖八月号応募作)



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