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第十回百年俳句賞 入賞作

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「てのひら」


蝶々や仄かに甘き粉薬
風船は雲で化石となつてゐる
邪神忌の無味無臭なる正露丸
邪神忌や鏡われ亡きときもうつす
邪神忌にちはやぶる蛾のをりぬべし
蜂割れて監視カメラは闇となる
掃除機の持ち手冷たし啄木忌
いつも故郷の味晩春のマクドナルド
チューリップたしか二重瞼(ふたへ)の人だつた
マネキンの吊るされてゐる画廊かな
カーネーション画廊の闇のやはらかく
夏立つや楽器のやうなふくらはぎ
兜虫の強姦撮つてゐて無音
兜虫飛び立つ一瞬の火花
死してまた蛹の姿勢甲虫
新宿や団扇貰へばすぐ扇ぐ
スプーンに虹の煌めきかき氷
蛾のやうな心地で街を遊びけり
文明廃れてサイダーの缶のみ残る
東京をひまはり枯れて 夏の雪
夏の月裸婦像は唇閉ぢきらず
卵みなつくりものめく冷蔵庫
扇風機越しにドッペルゲンガーの死体
夏痩せて深夜の牛乳がぬるい
こんな家族ならば冷奴にならう
イヤホンもうすらわらひも蚊帳のなか
致死量のビールの並ぶ戸棚かな
梅の実の太陽に灼かれしところ
ひとりでに唇話しだす鏡
わが死後の君を知りたし夏帽子
退院の身体新し青葉闇
恋人も金魚も新しい夜だ
秋麗や煙草二人のときは吸ふ
ちくしやうと吐き捨て新涼の咽
湯上りの肺甘やかに天の川
永遠に轍の濡れてゐて芒
蜩やケーキを溶かす猫の舌
瞬きに蜻蛉は消えて電気街
電柱に砂の手触り霧深し
名月の黄や珈琲の臭ふ口
黒冷えのピアノへ濡れてゐる斜光
鏡台を月への扉かと思ふ
てのひらで重たくなつてくる檸檬
肺炎の喉震へゐる夜長かな
鴛鴦の泳ぎは雲のなすがまま
擦り終へしマッチのいくつクリスマス
花柄の便所カバーや去年今年
なまぐさくズボンの湿る初寝覚
心臓のあかあかとして雪女
目を瞑りゐて月蝕と前世と樹

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