見出し画像

2023年角川俳句賞応募作

「仏忌」
眩暈に失明踊り場の銃で己を撃つ
春望の四方よもの椅子ひたすら磨く
海苔ひたすら食ふや蛍光灯が唸り
木香きがに眼のかぶれて通夜を白鳥引く
みな売り切れ仏忌の自動販売機
東京のテトラポッドに経沁むや
恋人と囁き三つ大椿
珈琲を乾してダーツやひこばゆる
灰皿の拭かれて臭ふ涅槃西風
麗らかや明王の火にき木目
釣り針を引つこ抜く夜の山葵かな
灌仏会訊杖は血を覚えざる
蝌蚪や虫歯をいぢくる舌の酒臭き
雲龍のうらを打つ雨瓜の花
宍人の硬き掌ねぶる涼夜かな
タカラダニ地下の泉を恋うてをり
髪洗ふ耳だれの夜は唾液を溜め
夜すがら鉄臭しビールの脳を癒し
紫陽花や硝子を隔て象の糞
観音に睨まれてゐる裸足かな
牛舌草裂けて昼寝の夢短し
今に我が火脹れを見よ大海月
喪や馬の嘶くたびに吹く熱砂
蜘蛛の囲の吹かれて死後の時なめらか
凪ぞ肋にあかねさす影の襞
蚤取粉亡き猫の尾のぬれやすき
まばたきのあひまに泳ぐからだかな
厨子仏小さく踊る跫音が
小楊枝の風呂に散らばる敗戦日
鉛筆で焦土を描く蔦かづら
鞄には犬の重たさ盆踊り
小刀を鰓に刺し込む糸瓜かな
ワックスのそぞろ崩れて疣毟
月白の物干し竿に蝸牛
ささくれの吹かれて指の良夜かな
朝寒の鱗粉を擦る指のはら
むかし指切れば人体臭気の詩や
恵比寿講われ蛭としてながるるか
竜の玉転がる音も机つる
〆切に時計近づく寝酒かな
冬館猿に見られて石拾ふ
山鳩の凍る予感や靴を履く
炬燵に本積むや昆布の浮きどころ
手袋で拭く一寸した黒子ほくろかな
詰められて腑の連なりや餅を搗く
折鶴の生りて無臭ぞ鐘氷る
なれが胃にごろごろと降る氷かな
仏陀の眼薄し痺れを身に秘めて
読経や麵麭パンの膨らみを待つ歯肉かな
湯冷ふと空念仏の唇や


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?