守屋 秋冬

コロナ禍以降、50歳を過ぎてから詩を書き始めました。 日本現代詩人会会員。ネット詩誌…

守屋 秋冬

コロナ禍以降、50歳を過ぎてから詩を書き始めました。 日本現代詩人会会員。ネット詩誌『MY DEAR』同人。詩誌『冊』同人。

マガジン

  • 詩(投稿作品)

    ネット詩誌MY DEARなどへ投稿した詩をまとめました。 「1 息子の息子と息子」が一番古い作品(2021.8.19)となっており、投稿順に並んでいます。

  • 雑文まとめ

    「詩」以外の文章になります

最近の記事

詩78「中毒前夜」

朝のビールは 一度知ると やめられない 寝惚けたまま 飲んだら ビールで もったいないから飲み干した 炭酸ジュースを 飲むつもりだったのに 翌朝から 寝惚けたふりして ビールを手にすると 勢い良く飲み干す ようになったが 誰も 気づかない 車を運転する 仕事ではないので 法に触れることはない きっと 社則にも 素面でないと 働いてはいけない なんていう文章は ないはずだ 毎朝 入り口で アルコール消毒して 検温するが アルコール検知器はない 誰か 気づいて く

    • 詩77「女と男」

      スーパーで買い物をしていると 同年代の女性が 近寄って来て 僕の顔をじっと見る そして 何も言わずに 歩き去って行く 誰かと 見間違いをしたようだ 思い当たることはなかったが とりあえず笑ったので 何だか損した気分になる 誰かに見間違われることが 昔から多い 大野君でしょ? 名前を呼ばれて いえ、違います 丁寧に否定したのに 嘘、大野君だよね? 否定を否定された 妻によれば 特徴のない 角度によってどうにでも見える顔で 話し掛けやすい雰囲気を醸し出している 僕に問

      • 詩76「問い」

        いったい なんのために 生きているのか  コンビニで  唐揚げ弁当を買い  おつりを  募金箱へ捨てる ぜんたい なんのために 働いているのか  募金の  使い道は  知らない いったい なんのために 半世紀も生きてきたのか  コンビニの  駐車場で  酔って  大きく笑う  老人がふたり ぜんたい なんのために 遅くまで働いていたのか  久しく  笑ったこと  なんてないと  気づかされる いったい いつまで 生きるのか  店内に  戻って  缶チューハイ

        • 詩75「自己紹介」

          最近  歩き方を 忘れました 飛ぶことは そもそも できません 先日 人の褒め方を 教わりました 人を貶すことは 知らぬ間に 覚えていました 泳ぎ方は 知っていますが 泳いだことはありません 呼吸を 時々忘れます 恋と愛の違いが 分からないのは 人を好きになったことが ないからかもしれません 二足歩行よりも 四足歩行が楽な時があります 何をし 何を覚え 何を忘れて 何のために 生きるのかは 知らないのに 今日も しぶとく 生きている 僕は 僕だけど 僕ではな

        詩78「中毒前夜」

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        • 詩(投稿作品)
          78本
        • 雑文まとめ
          4本

        記事

          詩74「前置き」

          話す前から 笑わないで欲しいと 言うのはワガママだ 話す前から 泣かないで欲しいと 言うのはヒキョウだ 前置きされると 身構えて 笑いたくなるし 泣きたくなる ほら やっぱり笑った 泣かないでって 言ったのに まるで 僕が悪者のようだけど 笑わなかったら つまんない人 泣かなかったら 冷たい人と言われる いずれにしても 前置きはズルい 笑って欲しい 泣いて欲しいと 言ってくれればいいのに みんな素直になれないから 後出しじゃんけん みたいな 前置きをする

          詩74「前置き」

          詩73「風と父と」

          風に 背中を押され 歩く朝 父を 感じる 幼稚園 小学校 転校した小学校 いつも 門の前で 立ち竦んだ 手をつなぎ みんなが 追い越していくのを 二人で見送り さぁ 行っておいで 手を離した父が 私の背中を 優しく押す きっかけは 手を握る力か あるいは 手の平の汗か まるで 風に 背中を押されたように 前へ進めるのだ 父は 私を良く見て 心から理解してくれた 中学校 高校 大学 そして入社 転々とした会社 私はひとり 立ち竦み 父の声と手を 背中に感じ

          詩73「風と父と」

          詩72「聴き屋」

          その人は 僕の話を 聴きながら 涙を流す 泣きたいのは 僕なのに 不可思議な 商売だと思う 話を聴く だけで お金を稼ぐ 医師でも なければ カウンセラーでも なく 占い師や 坊さんでもない ただの 聴き屋 僕の話を聴いて 泣き 笑い 怒るけど 癒しの言葉も 救いの言葉も 発することはない なのに 通い続ける 僕も 不可思議だが 予約も難しいくらいに 繁盛している 専門医に 話してみた 妻に 話してみた 壁に 話してみた けれど 気づけば 聴き屋 に戻る

          詩72「聴き屋」

          詩71「通夜」

          いい奴だった なんて 間違っても言われたくないと つくづく思う みんながみんな 口をそろえて いい奴だった なんて言うけど 俺は いい奴だった なんて 思ったことはない 死んだら みんな いい奴になるんだよ なんて言う奴もいるけど そんなに都合のいいこと あるわけないじゃん 迷惑をかけられまくって 文句を言いに来たけど もう喧嘩にもならないから 諦めているだけの話で いい奴だった なんて 思えるわけがない 俺が死んだ時に いい奴だった なんて言う奴がいたら 生き返って

          詩71「通夜」

          詩70「夕暮れ」

          薄暗くなったので 壁時計を 見たら 二時間過ぎている 僕らは 同じソファで 一言も話すことなく 座り続けていた 君は スマホゲーム 僕は 文庫本 どちらも 戦国武将が 主人公だ 遠い昔 恋人だった頃は 沈黙を 恐れていた 夫婦になって 久しい今は 沈黙が 心地良い 触れなくとも 話さなくとも 居るだけでいい 僕らの関係は 強くなった というより 深まった 互いが 求め合う のではなく 認め合い 許し合う 僕らは 同時に 立ち上がる そろそろ 晩飯の支度だ

          詩70「夕暮れ」

          詩69「アクリル板の存在意義」

          人の眼を見て 話すことが できない僕は 人の眼を見て 話すことが できない彼と 喫茶店で 向かい合い スマホ画面を通じて 話している 飛沫防止のため テーブルを分断する アクリル板は 存在意義を失くす 時折 画面を見ながら 笑う二人を見て 店員が足を止めるのは 不審な客として 注視されているからだろう 僕らは 眼を見て 話すことはできないが 同じ空間に居たいのだ アクリル板の向こうから 笑い声を 聞くと心が安らぐ  ねぇ  顔を上げてみて 心を決めて 僕は 話

          詩69「アクリル板の存在意義」

          詩68「皐月の日曜日」

          10分1200円の 散髪を終えて 空を見上げる 夏の雲が浮かぶ 季節は 先回りする もう少し 短くすれば良かった 帰ったら 半袖のワイシャツを 取り出そう その前に ソフトクリームの列に 並ぶことにする 夏の汗が噴き出す 季節は 先を急ぐ 思い切り 短くすれば良かった 夏の、夏の と言うものだから 新緑の風が 前髪を揺らし 吹き抜けていく

          詩68「皐月の日曜日」

          詩67「目醒め」

          ほんの 少しだけ 優しさを 分けて下さい 改札を 出たら 声を かけられた 募金箱を 持たない 黒髪の少女は 泳ぐ目を 捕らえて射抜く ほんの 少しだけ 優しさを 分けて欲しいのは 僕のほうです 思わず口にすると ぽっかり 足元に 大きな穴が開いた  でも   なぜか    落ちない 少女は 小さく頷き 長い髪を揺らして  代りに   落ちた これから 生活のために 老いた人を騙し 傷つけるはずだったけど 急に 怖くなって 改札に戻る 与えられた スマホは

          詩67「目醒め」

          詩66「足裏」

          足裏が 痒くて 靴を脱いだら 落ち着いた ホッとして 靴を履いたら また足裏が 痒くなり もう一度 靴を脱いだら 余計に 痒くなる 靴下を 脱いで 足裏を 見ても 何もなくて 靴下を 裏返しても 何もない でも 靴下を 履いて 靴を 履いたら また痒くなりそうなので 右足は 裸足で歩くことにする 足裏は 納得したのか 痒さは 消えた そういう訳で 片足だけ 裸足で 歩いています 職務質問されたので 親切に説明したのに 連行された    もう少し  まともな  

          詩66「足裏」

          詩65「日曜日の昼下がり」

          跳んで 揺れて ペンライトを振る 窓の外 男女比半々 平均年齢二十五歳前後 僕は ショッピングモールの カフェでヘルシーランチを食べている 屋上のイベント会場で 何かが始まったのだが 店からは 観客しか見えない たぶん マイナーな アイドルを推す ファンの集まりだと思われる 跳んで 揺れて ペンライトを振る 交わることのない人種 との壁が 段々となくなり 彼らの一挙一動に心奪われる ステージのアイドルは まったく見えないのに 観客の熱に引き込まれる とにかく

          詩65「日曜日の昼下がり」

          詩64「或る気づき」

          追いつきそうで  追いつけない ずっと 同じことを 繰り返している 加速すれば 加速する  減速したら  減速する いつまで経っても 距離は縮まらない ずっと 同じことを 繰り返していたら 背後で 誰かが 笑った  追いつきそうで   追いつけないのは 追い越そうとしないからだ 聞き覚えのある声は あっという間に 追い越していく 追いつくことは 無理だと思っていた だから 追い越すなんて 考えたこともなかった だけど 置いていかれるのも 嫌なのだ

          詩64「或る気づき」

          詩63「父の遺伝」

          手が 小さいのは 父の遺伝だ だから チャンスを 掴めない いつも 遺伝のせいにして 生きてきた 手が 大きかったら チャンスを 掴めていただろうか? 手が 大きいから すり抜ける そんな 言い訳を していた 気がする たぶん 手ではなくて 言い訳が 最大の遺伝なのだ きっと

          詩63「父の遺伝」