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詩(投稿作品)その①

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ネット詩誌MY DEARなどへ投稿した詩をまとめました。 「1 息子の息子と息子」が一番古い作品(2021.8.19)となっており、投稿順に並んでいます。1~100+1で「その①…
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記事一覧

詩100「淋しい人」

淋しい と言えない 彼は 淋しくなると 黙り込む いつから 淋しい と言えなく なったのかは 自分でも 分からない そもそも 淋しい と言えた頃が あったかも はっきりしない 淋しい人は 淋しい人を 呼ぶから 彼女も 淋しい人なのだが きちんと 淋しい と言える人だ 彼女が 淋しい と言うから 彼は 淋しい と言えなくなる 彼女が 淋しい と言うから 彼も 淋しい と言えばいいのに 言えない どうしてだろう? 彼が 淋しい と言ったら 彼女が もっと 淋しくなる

詩99「川面」

川面を走る女を見たのは  昨日の朝のこと たぶん 誰も 信じてくれまいと 今朝は いつでも 撮れるように 構えている 年齢は 分からず 思い返せば 髪が長かっただけで 男だったかもしれない やはり 現れない か ぼくは 川に近づき スマホを 尻ポケットに入れ 大きく深呼吸する 一回、二回、三回と 心が決まり 向こう岸を 目指して 川面を 走り出す 一歩目から 浮かばず ランニングシューズは ずぶ濡れになる 川幅 五メートルほどの 浅瀬 髪の長い人が 追い

詩98「ひらがなで」

最近 ひらがなで 考える ようにしている 難しい ではなく むずかしい 困った ではなく こまった 嫌 ではなく いや なんとなく ハードルが 下がった 気がするのだ 漢字テストが 嫌いだったのに 大人になって 漢字で考える ようになったのは 単なる見栄で 大して難しくないことを 漢字で考えると 大したことのように思えるから 漢字が 苦手なくせに 自分で 自分に 酔って とにかく 難しい顔をする ひらがなで かんがえる ようになってから ぼくは こころが しずか

詩97「あと一年、あと一分」

昨日、 明日には 世界が終わる と聞いたのだけれど 今日が まもなく 終わろうとしている どうやら 今日で 世界は終わらない らしい あと 七分あるから まだ 分からないけれど  あと  一年で  死ぬとしたら  何をしますか? 先日 駅前で 声を掛けられた  考えたことも  ないので  分かりません 無気力に 答えたら パンフレットを 渡されて 勉強会に誘われた 昨日、 明日には 世界が終わる と聞いたのだけれど 今日 僕は 何もしなかった ただ ただ 本当

詩96「2022年11月3日の午後」

太ったね と言われることが 多かったのに 痩せたね と言われることが 最近増えた 必死に 痩せようと していた頃が 懐かしく もっと 食べておけば良かった と後悔する まさか 食べたくても 食べられなくなるなんて 食欲がなくなったのではなく 食が細くなったのだ 変わらないね と言われることが 多かったのに 変わったね と言われることが 最近増えた 必死に 変わろうと していた頃が 懐かしく もっと 自分らしくいれば良かった と後悔する どんなに 変わりたくないと思

詩95「酔っ払いの朝」

二日酔いで ふらふらして 家を出たら バス酔いして くらくらしながら 電車に乗り 座ったら 舟を漕ぎ 随分と 乗り過ごす  体調が  悪いので  今日は  休みます 後輩の 部長に メールする  大丈夫ですか?  元々、休みの予定でしたよね  予定も忘れるくらいに  体調が悪いのですか? そうか そうだった 今日が休みだから 昨晩は いつもより深酒したのだ 飲み過ぎて 眠れずに 休みであることも 忘れて 家を出たなんて いくらなんでも 飲み過ぎだ  失礼しまし

詩94「秋の夕暮れ」

残業続きで 休みの日は できるだけ 長く  深く眠り  夏は過ぎて行った 夏に 眠り過ぎたのか 秋になったら 休みの日も 眠れなくなった 歩けば眠れる と言われて 嫌々ながら 散歩に出掛ける 二分後 金木犀の香りに 気づく 毎朝毎晩 駅へ向かう道なのに 鼻は閉じていたのだろうか? 川沿いを 進むと ススキと コスモス 秋の気配が 身近に溢れているのに 何ひとつ 感じなかった 足早に 日が暮れる 夕陽も 秋時間なのだ 久しぶりに 夕焼けを見たら 生まれて初めて

詩93「夫婦」

本当に  苛々する   どうして    お前は     そんなに愚図なんだ 背中を丸め カートを押す夫に 背筋真っ直ぐな妻が 怒鳴り散らす 三十年後の自分を 思い浮かべる 体力が衰え 妻に怒鳴られる なんて まっぴらごめんだ メモ書きを 頼りに 買い物をする日曜日の午後 老夫婦の 周りから 人は自然と消える 関わりたくない 見たくない でも ちらちらと 見てしまう 夫は 怒鳴られても 表情は優しく 言い返す気力もないようだ 本当に  苛々する   どうして  

詩92「誕生日の夜」

せめて ビールを まもなく 日付が変わる とにかく 祝杯を 一本飲んだら 日付が変わった 今年は 間に合わなかった いつもの 晩酌に変わる 誕生日は 終わったのだ ビールの後は 第三のビールに変える 新しい 一日が始まった 見下ろす ビール腹が 年輪に見える 誕生日の 再会は 果たせず 残業疲れなのか 一気に 酔いが回る 亡き 父と母が 現れる 日付が変わり 諦めていたので 嬉しさと 恥ずかしさが 既に 二人を 超えて生きる 図々しい息子は また

詩91「真面目な二人」

三角と四角のどちらが好きかと聞かれて、そんなこと考えたことがないので黙り込むと、真面目なんだねと笑われる。君はいつも、真面目なんだねと言いたくて、僕に質問する。もしも、三角と答えたら、すかさず、どうして? と質問を重ねるだろう。なんとなく、とか、理由なんてないと開き直れない僕は、また黙り込むから、やっぱり真面目なんだね、と行きつく先は決まっているのだ。 僕は冗談も言えないし、愛想笑いもできないつまらない男だと、自分を思ってきたけれど、君に出会ってから、つまらないから真面目に

詩90「本を読む」

いつもの 単行本を 手にして 家を出る 地下鉄の ベンチで 付箋だらけ 赤線だらけの 物語を開く 目の前を 人が 行き来する方が 一人に なれるのだ 何度読んでも 懐かしく 何度読んでも 新しい 隣りに 座った 少女が 紫のハンカチを 差し出す 僕が 思い描いた 主人公だ この世に 現れた のか 僕が 本の世界に 入り込んだ のか どちらなのか 分からないが とにかく 涙が止まらない いつも ありがとう ハンカチを 受け取ると 少女は 優しく笑んで うっす

詩89「抱きしめる」

だから、だから と泣きじゃくる だから、の先が 分からないから わたしは だから、の先を じっと待つ でもね、でもね と泣きじゃくる だから、の先は 分からないまま でもね、に変わり わたしは 小さな体を 抱きしめ 髪を撫でる 上手く 説明することは 大事だけど 上手く 説明できないことは 恥ずかしいことではない 娘は わたしの幼い頃に そっくりだ わたしも 泣きじゃくって 母に抱きしめてもらった 言葉で 上手く伝えられなくて 悲しくなったのだろう わたしが

詩88「声なき声」

声なき声が聞こえる耳があったら 世の中は変わるだろう 声なき声が 溢れていることに 誰もが気づいているけど 気づいても聞こえないから 生きていられるのだ 助けを求める叫び 噛み殺す罵詈雑言 あるいは 小心者の恋の囁き 口から 発する言葉は いくつもの 網を潜り抜けた 稀有な存在なのだ 朝から晩まで 喋り続ける 我が母にも 声なき声はある 声なき声は 澱のように溜まり 心が重くなるから 僕はときどき 風呂場で叫び尽くす 声なき声に 重さなんてないはずなのに やけに重

詩87「老人の詩」

老人は 老人と呼ばれ 老人扱いされるのが嫌で 町を出た 辿り着いたのは 老人ばかりの町 誰も 老人を老人と呼ばない 誰も 老人に年齢を聞くこともない 老人は 老人ばかりの町が心地良すぎて 茹で老人なってしまうと思った 老人は 町を出ることにした 老人は 一人で生きると決め 山奥に小屋を建てる 日々は綱渡りで 見る見る痩せて 顔は日焼けで黒くなり 体は垢まみれに 生きるのに必死で 老人は老人であることをすっかりと忘れて 人間に成る 人間として 生きること 二年