見出し画像

詩69「アクリル板の存在意義」

人の眼を見て
話すことが
できない僕は

人の眼を見て
話すことが
できない彼と

喫茶店で
向かい合い
スマホ画面を通じて
話している

飛沫防止のため
テーブルを分断する
アクリル板は
存在意義を失くす

時折 画面を見ながら
笑う二人を見て
店員が足を止めるのは
不審な客として
注視されているからだろう

僕らは
眼を見て
話すことはできないが
同じ空間に居たいのだ

アクリル板の向こうから
笑い声を
聞くと心が安らぐ

 ねぇ
 顔を上げてみて

心を決めて
僕は
話しかける
 
 えっ?
 
 いいから
 顔を上げてみて

彼は
画面から
ゆっくりと
顔を上げる

僕は
彼を
見ている

彼も
僕を
見ている

知り合って
五年以上過ぎたが
初めて
眼が合った

今朝 
顔を洗った時に
ふと 気づいたのだ
鏡の中の自分と
眼が合っても
大丈夫であることに

アクリル板に映る
自分と眼を合わせて
彼の眼を見れば
怖くないはずだと

 信じられない
 君と目が合うなんて

彼は
ひどく
興奮して
泣き笑いする

テーブルを分断する
アクリル板は
新たな存在意義を得た

アクリル板は
僕らをつなぐ

いつか
アクリル板が
取り払われたら
僕らは
アクリル板を
持ち歩けばいい

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?