見出し画像

秋のクルミ争奪戦を実況中継


参加者
1.りすさんチーム
2.人間さんチーム

会場
クルミ通り(カシグルミ、またの名はペルシャグルミ  学名:Juglans regia)


実況中継アナウンサー→ア
解説者→カ

▽序盤戦(9月下旬)


「毎年秋の恒例になりました、クルミ争奪戦。いよいよスタートの時期がやってきました」

「クルミは脂肪たっぷりでリス選手にとっては冬の大事な非常食。脂肪ときくと太る!と危険信号がともりますが、クルミはコレステロールや中性脂肪を減らしたり、認知症予防など脳にいいということでブレインフードとも呼ばれて注目を集めていますから両チームともに譲れませんね」

「会場に目を移しましょう。今年はどのような展開が予想されますか?」

画像17

「今年は春の気温が低くて、夏も雨が続くというあいにくの天候でちょっと実の付き方が悪いですね。少ない実をめぐって熾烈な戦いになると予想されます」

「ほう、なぜ実のつきが悪いのでしょう?」

「クルミはアジア西部のペルシアが原産地とされて、つまり温暖な気候を好む木です。一番いいのは穏やかな冬と、高温で乾いた夏で反対に早霜や遅霜に弱く、咲いた花がやられてしまったりするのです」

「こちらは5月に撮った花の時期の写真です」

画像1

「一つの木に雌花と雄花が分かれて咲きます。下に黄色く細く垂れているのが雄花、写真でははっきりしませんが枝の先端に咲くのが雌花です。風で受粉するのですが、先に咲く雄花、後に咲く雌花の時期が重ならないと自家受粉ができず実がなりません。何本か並んでいたり近くにクルミの木があると花の咲く時期がずれて受粉のチャンスが増えるというメリットがあります」

        
「おーっと。話をしている間にリスさんチームが木に勢いよく登っていきました。クルミ争奪杯においては100mのウサイン・ボルト並に強いりすさんチーム」

画像3


「りす選手には脚力と跳躍力で人間は到底かないません。足先の爪と力強い後ろ足をみてください。クルミの木は最高で約25mくらいにもなりますが、このかぎ爪でいともたやすく上っていくことができます。木から木へと大きなしっぽでバランスをとりながらのジャンプもお手の物です」

スクリーンショット (6)

「人間さんチームは子供から高齢者まで幅広い年代が木の下をウロウロして探していますがどうでしょう」

「今年はスタートダッシュがどうも遅いようです。ミュンヘンではオクトーバーフェストが始まる9月下旬ごろからクルミシーズンがはじまりますが、人影はチラホラといった雰囲気ですかね」

画像8

「さて、ここで競技のおさらいをしましょう。木に登ったり、地面に落ちているのを拾ってなるべく多くのクルミを手に入れたチームが勝ちです。まだ葉っぱも青青としていますし、実もまだしっかりと枝についている感じなので序盤戦はリスさんチームが圧勝ですね。どうも人間さんチームに勝ち目はなさそうですが・・・」

「人間世界でくるみ生産者は幹にベルトのようなものを巻いて機械で振動させて実をとるようです。一般的にははしごをかけても高い木なので届くところに限界がありますし、人間チームの勝ち目は薄いのですが、まあ見てて下さい。まさかの展開もありえますから」

▽中盤戦(10月初旬)


「葉がと黄色くなって、落葉するようになってきました。」

「そうですね。なっている実も緑の厚い皮が黒くなって殻がのぞいているのも増えてきましたし、ずいぶん落ちやすくなっています」

画像5

「おや、人間さんチームが拾っている手をみると指が黒く汚いのですが、これは泥ですか?」

「いえ、これはクルミの皮に含まれるアク「タンニン」の仕業なのです。一度手につくとなかなか落ちません。(*この手は石鹸で洗ったばかりです)人間さんチームの中には手袋を用意してくる用意周到な選手もいますね。このアクを染色に使う人もいるんですよ。生地や毛糸がきれいな茶色に染め上がります」

画像6

「落ちている葉っぱも茶色く変色していますね」

「葉っぱにもアクが含まれていて、雨で成分が土に染み出します。それが土壌を酸性にし、他の植物の成長を阻害する働きがあります。クルミの木の下にほかの植物が生えていないのはそのせいです」

「リス選手が実をクルクル回しながら緑色の皮と茶色い殻をガリガリ噛んでいる音が聞こえてきました」

画像7

「リス選手は鋭い前歯を持っているのですが、この歯は一生伸び続ける
ので堅いものをかじることで常に削らないと伸びすぎて食べ物が食べられなくなってしまうのです」

「なるほど、リス選手にとっては実をガリガリするのは必然的な行為ということですね」

画像14

「そういえば実(み)といままで表現していますが、緑色の皮が果皮、殻に包まれているのは種子で殻の中の白い部分は種の一部、仁だと聞きました」

「その通り。種なんです。リスさんチームが冬の蓄えにと土の中に埋めた実がひょこっと芽を出して幼木に成長していたりするのも種だから。クルミの木としても反対にリス選手に種をまいてもらうことで子孫を残すことができるという仕組みになっているんですね」

画像9

「おーっと、飛び入り参加でカラスさんチームの姿がみえます。落ちた実をくちばしでくわえて飛んでいく。虎視眈々と狙っていたかいがありましたね」

画像10

「人間さんチームもまだまだリスさんチームが落としてくれるのが頼りですが徐々に拾う量が増えてきましたね。なんでもクルミの木は植えてから10年で30~40㎏くらい、木としての最も盛りの40年になるとなんと150㎏ぐらいの収穫が見込めるそうです」

▽終盤戦(10月中旬)

「リスさんチーム、2匹がけたたましい鳴き声で走り回っています」

「リスは群れを作りません。つまりリスであっても一匹狼。冬を乗り切るため生き残りがかかっているので秋の食料集めは必死です」

「かわいらしいイメージがウリのリス選手ですが、かじる顔つきは、こういってはなんですがかなり。。。どう猛じゃないですか」

画像11

「リス選手は人間と一緒で雑食性。鳥の巣を襲って卵やヒナも食べますし、おとなしい草食系などでは全くないんですよ」
 
「羊の皮をかぶった狼というのがリスの正体だったとは・・・・・。それはさておき、食い散らかした食べかすも落ちていますね」

画像18

「前歯をクルミの縫合線にさしこんでパカっとてこの原理できれいにあけた後もあれば、ガリガリかじって食べたのと様々です」

「人間チームは持って帰って乾かして、お酒のつまみかなんかで楽しむんでしょうかね」

「クルミといえばクリスマス菓子の定番。レープクーヘンといった甘いお菓子とともにクルミは欠かせません。堅い殻をイエスキリストの苦難と結びつけたりしてイエスのシンボルとされることがあります」

画像16

「話は変わりますが、そういえばクリスマスシーズンになるとバレエの「クルミ割り人形」がひんぱんに上演されますが、あれも原作はドイツ人でしたっけ」

「その通り。E.T.A ホフマンの『クルミ割り人形とねずみの王様』(1815)がベースになっています」

「リスは登場しないんですね」

「冬場のリスは日中の活動時間が2ー3時間と短いですから・・」
 
「そういえばこんなものを見つけてしまいました。クルミの木で作られたステーショナリーボックス」

画像12


「これはお目が高い。クルミの木は強く、木目の美しさもあって高級材の一つ。家具や楽器、また銃身に貼られたりしています」

画像15

「さあ競技に戻りましょう。えっ!?ただいま臨時天気ニュースが入りました。秋の嵐警報がでました。お、会場のクルミ並木も相当揺れて落ち葉が舞い上がっています」

画像17

「人間チームのN選手が会場に飛び込んできましたよ。袋に落ちたクルミをポンポン投げ込んでます。これで今までこつこつ集めたのとほとんど同じ量が拾われました。しかも実が大きい。リスチームに追いつきそうな勢いです」

画像17

「これですね、一発逆転劇は。風を味方につけて一気に引き離しました。今年の勝負は人間チームの勝利。解説者の方、どうもありがとうございました」

その2日後・・・

「ああああああっ。なんとリス選手がN選手の2Fのベランダにのぼって乾燥させていたクルミをくわえて逃げましたーーー。これはひどいぞ、リス選手。競技終了後にとんでもないルール違反だ!!」

*↑実話です。箱に入れて上からしっかりとジュート布をかけていたにも関わらず、リスにやられました。においを嗅ぎつけたようです。恐るべし、リス…。



この記事が参加している募集

#最近の学び

181,413件

いただいたサポートは旅の資金にさせていただきます。よろしくお願いします。😊