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【若林源三解体新書】#14 ~ミュンヘンへ移籍することの意味~


若林くんは21歳にして、12歳の時から慣れ親しんでいたドイツの所属チーム・ハンブルグとの契約がなくなり、無所属の状態から同じドイツのバイエルン・ミュンヘンへと移籍することを決めました。

まぁだいぶ前からミュンヘンに来るようにとシュナイダーの誘いがありましたが、マドリッド五輪が終わらずまだまだ真っ最中に移籍を決断することになったのです。

これは彼にとっての重要なターニングポイントだと思われますので、ちょっと縷々主張したいと思います。


☆もともとミュンヘンへ行くつもりはなかった


現状の日本サッカー界を思えば、『 ブンデスリーガの強豪チームに所属することになった日本人GK 』なんて、おそろしいほどのパワーワード、パワーシチュエーションです
あの世界(←キャプテン翼の世界のこと)の中ならば、若林くんはミュンヘンでも間違いなく背番号1の正GK待遇でしょう。
そんな人が誕生してしまうなんて、かっこよすぎて凄すぎて、語る語彙を失います。

しかしながら、これを『 ブンデスリーガの憧れのスター軍団チームの一員になれるという、夢と誇りと希望で満ち足りたリスタート 』と単純な見方をするならば、短絡的で見当違いだと言わざるをえません。
彼のミュンヘン行きを、彼の夢の達成の一つのごとく、あるいは日本人GKとしての誉れ高く素晴らしき偉業の象徴のごとく語られると、私は違和感を覚えずにはいられないのです。

単純に誇らしく思えることばかりでないのは、以下に述べる理由からです。


☆達成できなかった『 目標 』

まず、彼が近年の目標として明らかに掲げていたのは、『 自分をここまで育ててくれたハンブルグに、リーグ優勝を成し遂げることで報いる』、そして同じく『 オリンピックでドイツに勝利することでドイツに恩を返す 』ことです。

↑ ↑ ↑ まだマドリッド五輪の予選が始まる前。ミュンヘンから約800キロの距離を車でやってきたシュナイダーは、若林くんを同じチームへと誘います。


 シュナイダーから『(自分がハンブルグからミュンヘンに移籍した次は)おまえが(ミュンヘンに)移籍する番だ 』と口説かれても、小学校卒業後からお世話になったハンブルグへの恩義を重んじて、そしてむしろミュンヘンのスター軍団のシュートを防ぐことに価値を見いだす若林くん。
自分を育ててくれた「 ここ 」であるハンブルグをリーグ優勝させたいと決意していたのです。


↑ ↑ ↑ マドリッド五輪の準々決勝・対ドイツ戦直前の意気込み。


その後のマドリッド五輪の真っ最中。
自身のGKスキルはドイツでプレイすることで培ったゆえ、自分が身につけたプレイでドイツを抑え日本を勝利に導くことが『 ドイツへの恩返し 』だと彼は語っていました。


しかし、これらの『 目標 』が達成されることはありませんでした。

ハンブルグでは、対ミュンヘン戦を引き分け狙いとした監督の指示に逆らい勝利を目指した自身の攻撃的プレイ、それをきっかけに監督との確執が生まれ試合出場の機会を失することに。
そして、五輪の対ドイツ戦では、例のごとく救急搬送されるほどの怪我により途中退場。

いずれの場合も、試合出場を余儀なく阻まれることとなり、若林くん自身が満足できるような結果には至っていないのです。


そもそも、スター揃いの最強チームミュンヘンでプレイすることが自分のGKとしての精進ないし夢の達成の一つであるなら、シュナイダーの誘い及びミュンヘンというチームの正式オファーに対し、迷うことなくとうの昔にイエスと返事しているはず。
しかし、ご覧のとおりミュンヘンに入れというシュナイダーの誘いには応じる気配がまったくない若林くんなりの信念や矜持で断っているわけです。

しかも、オリンピックのドイツ戦直前までは「 (ドイツ以外の)他の国のサッカーにも興味がある 」と述べており、これはドイツに勝って恩返しをしたうえでの想定と思われますが、この言動からしても『 憧れのミュンヘンへぜひとも移籍したい 』というような気持ちは微塵も感じられないのです。




☆ミュンヘン行きの決断理由


それが、マドリッド五輪の対ドイツ戦の後、ミュンヘンへの移籍を決断しました。
あまりじっくり考えた様子はありません。
むしろ、ひらめきに近い。
その経緯はこうです。↓ ↓ ↓ 


まず日本に、つまり翼君に負けたシュナイダーが、今度はチャンピオンズリーグで自分のチーム・ミュンヘンと翼君のチーム・バルセロナが対戦するであろうから、そこで「 翼に昨日の借りを返す 」、つまり今度こそ翼君に勝利すると自身の決意を宣言します。
なお、シュナイダーは、日本対ドイツの試合の翌日に怪我で入院中の若林くんのいる病院へ来たんですね。自分が若林くんに怪我を負わせたので、試合直後にすっ飛んできそうなものですが……描かれていないだけで実は前日に一度来ているのかもしれません。


負けても、すぐに切り替え翼君への新たな挑戦を語るシュナイダー。
その様子を見ていた若林くん。

そして、シュナイダーの発言の後に、自分が思うように活躍できていないことを象徴するかのような傷ついた自分のユニフォーム、その『 背番号1 』を目にします
そして、シュナイダーの言葉から翼君を連想します。

もともと出逢った当初は自分に挑戦してくる立場だった翼君。
そんな彼から、スペインのバルセロナ加入1年目にしてリーグ優勝もMVPもかっさらうという大活躍を見せつけられた。
かたや自分は、リーグ優勝などは達成しておらず(この連載においてハンブルグがブンデス1部リーグで優勝したことをにおわせるコマは全くないので、チーム優勝など目立ったタイトルは獲っていないと判断するのが相当)、そして自身の掲げた目標も理由は何であれ上記のとおり果たせてはおらず、サッカープレイヤーとして永遠のライバル大空翼に追いつかれ、そして追い越されたと感じ取った。
だから『 そんな翼に、今度は自分が挑戦する番だ 』という結論に思い至り、その手段としてシュナイダーとともにチャンピオンズリーグで翼と戦う、という理由で移籍を決断したのです。

つまり、若林くんにとってのバイエルン移籍は、夢の強豪チームに憧れて熱望したものではなく、永遠のライバル翼君に挑戦する、という手段なのです。
今度は自分が挑戦する側にまわり、試合に勝利することで翼を倒す。
もちろん、チームを勝たせるために自分がゴールを守るのが大前提です。

だから、その目標に燃えているという心情はゼロではないにせよ、夢のスターチームに所属できる喜びという短絡的なもので表されることには違和感が生じてしまうのです。
『 バイエルン所属となる若林源三はすごい 』には違いないものの、それ自体が『 日本人としてブンデスリーガ最強ともいえるチームのGK 』として華々しい活躍の象徴のごとき表現を見かけると、私の心中は穏やかではいられないのです。
凄い事ではあるし、若林源三みたいになりたい、という子がもしも現実にいたとしても不思議はないのですが、彼がミュンヘンへ行く心境を読み解けば『 若林はミュンヘンに行けるなんて、すごいですよね 』と単純な誉め言葉など出るはずはないのです。


☆決断から読み取るSGGKの信念と成長


ここで、この心境に至る彼が、元来どれほど真っ直ぐで、かつ、どれほど謙虚な人物に成長したかを記しておきたいと思います。
翼君と出逢った小学6年生時、つまり翼君が若林くんに『 挑戦 』してきた初対面時。こうでした。↓ ↓ ↓ 



翼君が若林くんに挑戦をする前提条件となった、修哲小サッカークラブの2軍(Bチームともいう。)メンバーを一人で抜き去ること。
それを翼君はいとも簡単にやってみせます。
そして、翼君が放ったヘディングシュート、若林くんはこれを弾いて防ぎます。
(なお、この時点で勝負が終われば、若林くんの勝ちだったのでは……?!)

その後、飛び入り参加したロベルト本郷のセンタリング(今時は『 クロス 』って言うのでしょうか??)を翼君が頭で合わせて、これを防ぎきれなかった若林くんは翼君にゴールを許すこととなりました。
小学5年で全国大会ノーゴール優勝を果たした彼にとって、非公式といえゴールを許したショックははかりしれず、そしてキレて『 サッカーの試合でないと優れた選手かどうかわからない、修哲小と南葛小の対抗戦におけるサッカーの試合で正式に挑戦を受ける 』と一方的に宣言するに至りました。


キレるとかそういうことは明後日の方角へ置いといて、この『 プレイヤーはサッカーの試合で評価されるべき 』という部分に、彼は一貫して重きを置いているのです

若林くんは翼くんより先に、15歳でプロサッカー選手として、しかもブンデスリーガでデビューしました。
環境に恵まれたとはいえ、本人の努力なくしてプロまで到達するのは無理なこと。充分それだけですごい
そして、確かに若林くんがチームとしてリーグ優勝はしていない様子の一方で、翼君は中学校卒業後ブラジルに渡りサンパウロのチームで優勝、そしてその後移籍したバルセロナでもリーグ優勝を果たしました。
それは主人公だから当たり前翼君は自らフィールドを駆け回るプレイヤーであることから自ら得点や優勝に大きく貢献するのが充分可能である一方で、若林くんはGKであり『 守ることでチームを勝たせる 』といってもチームの他のメンバーが得点しなければ勝ちに結びつけることは実際なかなかできないでしょう。
そもそもポジションからして勝利に貢献でき、評価される土台が違うのです

例えばバロンドールを受賞する選手、ほとんどが攻撃側の選手でGKはほとんど選ばれていないようです。
ヨーロッパにおいてGKというポジションがそれなりにリスペクトされているとはいえ、タイトルなどの目に見えやすい評価やスポットライトはどうしても得点側に与えられやすい。サッカーはそんなスポーツなのでしょう。

若林くんは、前述のように15歳でデビューし、ブンデスリーガのトップチームの中でも4,5人いるであろうGKの中から18歳までには正GKの座を安定して獲得し、怪我でシーズンを棒にふった時もあるとはいえ、翼君が招いたとも言えるピンチを「若林くん~~~~~~っ!!」と丸投げされ、それを見事に防ぐ場面もあります。

↑ ↑ ↑ 18歳の若林くん。背番号1・守護神の座を勝ち取り活躍。「 ゲンさん 」とサポーターから親しげに声援される様子も。


↑ ↑ ↑ マドリッド五輪、対ドイツ戦。つまり最も直近の試合の様子。主人公・翼くんからの信頼も抜群


…… こんな今までの彼の功績をトータルで考えれば、翼君に挑戦する側にまわるという、己をそこまで卑下する評価をする必要なんて無いはずなのです。

しかし、翼君と出会った当初は1点取られてあの態度だった彼が、大人になった今現在の自分の劣位を素直に認めている。彼はあくまで大会での優勝やタイトルという誰の目にも明らかな結果・評価で判断しているのです。

この男らしさと潔さ、そして謙虚な思考

そして、言い訳をしない自分への評価の厳しさ。
自分に厳しくストイックでいるからこそ、常に進化してゆく彼が表れている

昔からの主義は一貫して損なわないまま、そして子供のあの頃とは違い状況を冷静に受け止め判断できるようになったという、成長した大人の顔

ミュンヘンへの移籍とは、浮かれた夢の実現などではなく、そんな彼の性格や成長が描かれている場面でもあるのです。



☆チャンピオンズリーグの行方は永遠に。


若林くんと翼君の『 勝負 』、若林くんの修哲小と翼君の南葛小が対抗戦で引き分けとなっていることから公式戦では引き分け、個人的な勝負も二度目は翼君のオーバーヘッドを若林くんがキャッチしたので、一応引き分けで止まっています。

↑ ↑ ↑ 対抗戦の結果

↑ ↑ ↑ まぐれ…春先には胸ぐらをつかんでいた人とは思えない謙虚さ



そして、大人になった二人が正式に対決するであろうチャンリオンズリーグですが、私自身は「正直読みたいようで読みたくないので、高橋先生には正直描いてほしくない」と、かつてTwitterで再三ぼやいたりしていました。(もちろん先生が目にするはずがありませんが……)
先生が描く以上、どんな展開であろうともバルサ、つまり翼君が勝つに決まっているからです。
それはすなわち、若林くんが掲げたも自己目標をまたもや達成できないことを意味し、シュナイダーに至ってはジュニアユース編、現在の連載のライジングサンに引き続き、大空翼を倒すという目標を達成できないことを三度もはっきりと描いてしまうことになるのです。



この記事のとおり、高橋先生は現時点で『 今の連載の後のことは描ききれるかわからない、だからその後のストーリーの原案をゲーム(klab社のスマホ向けゲームアプリ『たたかえドリームチーム』)に委ねる 』という選択をされました。

以下は私の個人的な願望というか妄想となりますが……

高橋先生は、もしかしたら、若林くんのことはともかくシュナイダーを負けさせるストーリーをご自身の手で描くことに負担を感じられ、正式な自らの作品とするのを避けたのではないかと私は考えています。
先生も、本当は皇帝シュナイダーが負けるような試合は描きたくはない。
日向君が中学生編の全国大会決勝で負ける予定だったところ、あまりにひたむきに勝利を目指す日向君が負けるという結果に先生が心苦しくなり、同点優勝という結末に変更されたという話は有名です。
それを考えれば、シュナイダーが翼君に負けてばかりの展開など先生も描きたくないというのは自然な感情ではないでしょうか。

現在の連載における、ドイツが日本に負けた時のシュナイダーの涙。
敗北の無念と、大怪我により試合から途中離脱した親友のカルツに対する感情が描かれたコマではあります。
しかし、このシュナイダーの表情から、彼を勝たせてあげられなかった先生の遺憾の念までも伝わってくる気がしてならないのです。


↓ ↓ ↓ シュナイダーの涙のコマ。

↑ ↑ ↑ 集英社 キャプテン翼マガジンvol.5キャプテン翼ライジングサン より



………シュナイダーの敗北の姿、もう誰も見たいはずはない。
彼だって栄冠が十分すぎるくらい似合うキャラクター。
悲願を遂げて最高の笑顔を見せて欲しい。

そんなわけで、チャンピオンズリーグの結末は、永遠に読者の想像の中でよいのではないでしょうか。
とはいえ、結果に至らなくてよいので、試合の様子を一部垣間見られるような原作での読み切り短編ストーリーやイラストには、ちょっと期待したいところです。


シュナイダー誕生秘話です。 ↓ ↓ ↓





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最後までお付き合いくださり、
本当にありがとうございました。

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