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【若林源三解体新書】#15 ~彼が『オフェンス』にまわる時~

「S・G・G・K若林って、スーパーグレートだから何でもできちゃうんでしょ?だから、ゴールだって奪っちゃうしね!」

…… という微妙な勘違いをしそうな方々が続出すると、間違いなく私が微妙な気持ちになるので、今日は彼のオフェンスプレイについて書いておこうと思います。




☆具体的な攻撃シーン


確かに、自らのシュートで得点してしまいます。
しかも、物語の始まったかなり最初の頃に。

↑ ↑ ↑ ① 修哲小対南葛小との対抗戦にて



その後、ゴールを決める以外の攻撃参加シーンも。

↑ ↑ ↑ ②  第6回全国少年サッカー大会決勝にて



↑ ↑ ↑ ③ ブンデスリーガ第5節、対B.ミュンヘン戦にて



↑ ↑ ↑ ④ マドリッド五輪前のU-22テストマッチ、対ナイジェリア戦にて


…… 原作ではこの4場面ですね、彼の明らかな攻撃は。


もともとの彼のプレイスタイルで重視されているのは「堅実さ」。
これは、彼が小学4年生の12月からGKコーチとして就任した見上さんの教えによるものでしょう。



そんな堅実な彼も、やがて片桐さんいわく『 若島津から影響を受けた 』のか、ゴール前からかなり飛び出した果敢な守備を見せるようになります。
しかし、それも若島津の三角飛びディフェンスのような派手なパフォーマンスではなく、ボールにアタックして守る意識を強調したような、堅実の先にある成長のプレイです。

↑ ↑ ↑ 守るためなら空だって飛べるはず、っていうか、飛ぶ。しかもペナルティエリアを超えて。これはちょっと派手かもしれない……




しかし、攻撃が目立つかと言われると、それが彼の持ち味だったり象徴的と言えるほどではないでしょう。

『 ゴールも狙う攻撃的キーパー 』といえば、思い浮かぶのは断然メキシコのミラクルキーパー・エスパダスですね。↓ ↓ ↓
 



☆攻撃の場面における意味や理由


守れて得点もできて何でもできちゃうスパダリGKを若林くんが目指してるなら、もっと攻撃シーンが多くあるでしょうし、見上さんから堅実なプレイを評価されるシーンも描かれないと思われます。
スパダリだとSGGKではなくSDGKで、表記だけみるとSDGsみたいですよね(←?)
(スパダリって死語でしようか??)


チームの得点に関して彼が意識しているのは、自分自身が得点することではなく、これはどんなGKにも言えると思いますが『 自分がボールを持った時には攻撃の基点になる 』こと。
形勢逆転の得点につながるキックというものには重きを置いています。
上記③の試合では、彼のトップスピンパスにしっかりとカルツが合わせて、ハンブルグが先制点をあげました。
他にも、この記事の末尾のようなシーンもあります。


この、攻撃の基点となる意識は、オーバーラップしたりして自分が得点するものとは明らかに異なります。

逆に、いざとなったら俺が得点してやる、と常日頃から思っている様には全く見えません。


とはいえ、何でもできちゃう人なので、上記のとおりオフェンスもやればできます。

しかし、完全なオフェンスにまわった時、そこにはそれぞれ意味や理由があるのです。


まず①

チャンスと見るや、飛び出してきてゴールを狙う。
確かにここだけ見れば『 隙あらば得点するキーパー 』に見えてしまうかもしれません。
しかし、その後の彼のプレイでこのような場面が多発するわけではありません。
ここでは、双方の陣形を見て、意表をついて自分がオーバーラップしてシュートするのが最も効果的だと瞬時に判断したのです。
従って、ここは、小学生にして守備の面のみならず試合全般を見ることのできる彼の優れた視野と判断力が表れている場面と見るべきでしょう。
しかも、実況さんによって「キック力ならフィールドプレイヤー以上」だとずば抜けている選手であることも明かされる

そして、『 ゴールキーパーだって、シュートしていい、ゴールを決めてもいい 』という事実。
これは、連載当時サッカーを何となくしか知らない 日本の多くの少年少女達にとって、相当衝撃的なルールだったのではないでしょうか。

そんな、様々な紹介が隠されたゴールシーンであり、このひと蹴りで『 得点をしたい人 』と評価するのは安易だと思われます。


次に②

これは、『 日向に2点も許してしまった俺が、せめて穴埋めだけでもさせてもらう 』ために攻撃しているのです。
隙あらばオーバーラップして得点したい、という呑気なものではありません。

この時点で試合は1-2と南葛SCの1点ビハインド。
日向君には1点もやらないつもりで決勝に臨んだ彼は、怪我をしているとはいえ2点も許してしまい、そのままチームが負けてしまうのを黙って自分のゴール前から見ているわけにはいなかったのです。
しかも、前年度は無失点で全国大会優勝でした。
そんなプライドをかけ、責任と気迫のこもったドリブルからのシュート
これは、自分の脚で得点するというよりチームの形勢を見て放ったもの。
岬君がシュートコースを変えられる位置にいることを承知の上でのロングシュートです。
これに反応した明和GK若島津の動きとは逆方向へと岬君がヘッドでボールの軌道を変えますが、ゴールの枠から外れてしまいます。
これを、さすがの翼君が神判断で飛び込み、片手をついて前転しヒールキックでボールをゴールへ押し込む。
そんな感動の、あの同点劇が生まれたのです。 ↓ ↓ ↓


そして、大人になった③

時は流れ、ブンデスリーガのプロとして活躍する彼。ブンデスのトップオブトップの座がかかっているといってもよい大一番の試合。

ここで彼は、自軍のフリーキックのチャンスでオーバーラップして果敢にゴールを狙います。
果敢に狙っていますが、①のような情勢を見て伸び伸びとプレイしているのとはわけが違います。

この試合。
大人になった彼は、大人の事情で『 監督が引き分けを狙う明らかな作戦に出たため、ミュンヘンの攻撃力を封じることに徹する生ぬるいサッカー 』を強いられている状態でした。


守るだけのサッカー、これでいいのか、と自分の中で自問自答した結果、あくまで勝ちに行くという姿勢を選んだのが、このオーバーラップです。
シーズン前から王者ミュンヘンを倒すためにトレーニングを重ねてここまできた。引き分けという安全策に甘んじて満足することなく、あくまで勝利を目指す、その強い想いでゴール前から飛び出した。
自分自身でゴールを奪いたいからというよりも、何としてでも勝ちたかったゆえのプレイなのです。
チームメイトも、それまでの彼の活躍から生まれる信頼と勝利への想いを、彼のフリーキックに託します。

そんな、彼のサッカーへの情熱と美学ともいえる渾身のキック。

それは、ゴールネットに突き刺さるという賛美のドラマではなく、哀しくも肖俊光によって蹴り返され、しかもそれをきかっけに宿敵シュナイダーに逆にゴールを決められてしまいます。
その後、ハンブルグは同点に追いつくことはできず、結局は敗北で終わります。

「 勝負は……” 勝ち ”と” 負け ”はまさに紙一重…… 」「 ” これがサッカーさ ” 」、というハンブルグのチームメイトの言葉で、このシーンは幕を閉じます。

それがサッカーかもしれませんが、この結果のサッカーだったことから、彼は引き分け狙いの監督の命令に従わず負けを招いたとダメ監督から干されてしまいます。

大人の事情と、いつでも美学が常にまかりとおり順風満帆といくわけではない切なさを彼は背負うこととなる、そんな攻撃シーンなのです。



さらに切ない④

この試合は、③の試合の結果、監督との確執が生まれ所属チームで試合出場の機会を失った彼を、五輪サッカー男子日本代表監督の吉良さんが代表チームに呼び戻したことから出場の機会を得たもの。

ここでも、ナイジェリアに2点を許し、日本代表チームは1-2のビハインド状態です。

そのままナイジェリアがボールをキープし時間稼ぎをする『 とりかご 』的なことをされて、「 なめやがって 」と彼の戦闘意欲に火がつきます。
余談ですが、小学生の時に散々とりかごをやっていたらしき彼なのに、反対にやられると「 なめやがって 」、とは

ここで、自らボールカットして攻撃に転じ、負けたくないとの一心で攻め上がります。
そして、②同様、岬君にパスを出します。
翼君のいないこの試合で最も得点に関する信頼をおいたのが、翼君のゴールデンコンビの片割れである岬君だったのでしょう。

ここも、必ずしも自分で得点したいわけではなく、そのきかっけを作ったにすぎません。
そして、この試合の中でモヤモヤとしていた岬君がいい意味で爆発し、気迫の1点をもぎ取ってタイムアップとなり、試合は同点で終了します。
勝てませんでしたが、負けもしませんでした。
「 わざわざ負けるために日本にまいもどってきた訳じゃねえ!! 」という彼の信念は、自らとりかごを破るボールカット、ドリブルとパスをきっかけに守られ、世界を相手に日本の強さを見せつけることができたのです
小学生の頃はとりかごを指示していたあの彼が……、と思うと皮肉さも若干残ります。





このように、何でもできるのでいざとなったらこうして攻めに転じることがあるものの、チャンスならいつでもユーもオーバーラップしてゴール狙っちゃいなよ、と言われるようなスタイルがSGGK若林源三の攻撃ではないのです。



☆そもそも『S・G・G・K』とは


だいたい、スーパーでグレートなゴールキーパーってなんぞやということですが、元日本代表GKの見上さんにより「 世界一の超偉大なゴールキーパー 」と定義づけられています。

↑ ↑ ↑ いずれも集英社ジャンプコミックス『キャプテン翼MEMORIES 1』より



この称号に、直接的な得点への期待はない。得点できることがSGGK若林らしさなわけではありません。

本職・本分はあくまでGK、そして世界の中で活躍してこそ輝くのがこの称号なのです。

勝負にこだわるのは彼らしさではありますが、そのこだわりを見せるための本来の場面は、チームを勝たせるために極めたゴールディフェンスでしょう。


それゆえ、S・G・G・Kと攻撃を並列させることに、強い違和感を私は感じてしまうのです。


『S・G・F・P』

なお、若林くんについて『S・G・F・P』という表現が用いられたことがあります。

FP、とは、フィールドプレイヤー
このシーンは、相手のシュートをキャッチした若林くんのロングキックをFWの新田君が落とし、エース日向君がきっちりとシュートを決め、日本代表チームが世界選抜チームから先取点を奪うという試合展開でした。

若林くんによく見られる、攻撃への絡み
先にも書きましたが、それは、本来はゴールを開けて危険を冒しながら行うものではなく、自軍ゴール前から味方の位置をしっかり見極め、敵陣のできるだけ深い所に繋がるようロングボールを送り得点チャンスをダイレクトに作るという、攻撃の基点となるプレイのことなのです。


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