過ぎた時間は戻せない。あの頃の音、残しておけたらよかった。
父は、いろいろな仕事を経験していたと思う。
私が一番記憶している父は、タクシーの運転手だった。
交代制なので夜勤もあり、お弁当を2食分持っていくこともあった。
父があるとき、私に宿題を課した。
洋画主題歌のアルバムを、カセットテープに録音することだった。
父のお気に入りは西部劇。
今のように、ネットで見たり、レンタルしたりできる時代ではない。
町に映画館はあったけど、いつ観に行っていたのかは知らない。
小学校で放送委員だった私は、ちょっとわくわくしながら、その宿題に取り組んだ。
まず、LPレコードから、ランダムに曲を選び、DJのように曲紹介をするところから録音を始める。
その曲をカセットテープに録音したら、またDJ風に曲紹介をし、次の曲を録音する。
それを繰り返し、カセットテープの両面に、入るだけ録音した。
OK牧場の決闘、ジャニーギター、夕陽のガンマン、荒野の用心棒、黄色いリボン、ローハイド などなど。
そのテープを持って、父は仕事に行く。
お客さまを乗せたときも、それを聴かせていたのだろうか。
映画は観たことがないけど壮大な曲が多く、好きになった。
今はもう耳にすることがなくなった。
たまに聴きたくなる。
あの時のカセットテープ、もう一度聴けたらな、と思う。
自分の声を聴くのは恥ずかしい。
子どもの頃の自分の声は、怖いもの見たさ、聴きたさ?もあるけど。
聴きながらハンドルを握る父は、何を考え、どんな気持ちでいたのだろう。
曲は後世にも受け継がれていく。
今はYoutubeなど、残せる”場所”が多くはなった。
でも、過ぎた時間は戻せない。
小さいころの子どもの声、一緒に過ごした親の声も残しておけたらよかったな、と思う。
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