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女でも男でもなく何者でもない自分でいたい

休職して世間の目から縛られる感覚がなくなり、かつ妊娠したお腹もそれらしく目立ってきた今。意外にもとても生きやすい。

休職前は、周囲から「女」に向けられる目線を執拗にこちらにも向けられる中で、いかに自分を壊されないように守るかに必死だった。ただでさえ男性用制服でオープンに仕事をしていたのにその状況だったから、本来の自分よりも遥かに男らしく振る舞うことでバランスを取るしかなかった。
自分は自らを「トランスジェンダー」を名乗ることがあるほどには、生まれ持った「女」という性別に従って生きるのが無理だ。どちらかといえば「男」として在る方が自然な感じがする。でも完全に「男」になりたいわけではなく、ただの「人間」でありたいだけなのだと最近つくづく感じる。

今は妊娠という女性の体を持つものにしかできない体験をしているわけだが、不思議なことに、自分の身と心とが乖離しそうなこの状態がますます自分をただの「人間」でいさせてくれている。
生理がないという点で女性としての配慮を受けたり憂慮をしたりする必要がないし、女性にしか見えない状態になってきたから“今日の周囲からの見られ方”を察して使うべき施設(男女別トイレなど)をいちいち検討する必要がないし。
今までずっと気にしてきた、知らない人からの「お前はどっちなんだ?」や知っている人からの「女のくせに女らしくない」のようなジャッジの視線を受けずに生きられることが、自分をここまで「人間」たらしめてくれるとは思わなかった。

性別から解放されたい。

社会的に「女」という足枷をはめられるのも嫌だし、逆に「男」という重荷を背負うのも嫌だ。一見ワガママに聞こえるかもしれないが、単に「女」の足枷が外されて「男」が背負う重荷の半分を担える社会が作られればいいだけだ。

身体の構造的に女性には体調の悪くなる日が多い人がいて、ときに妊娠で働けなくなる期間が出てくる人もいるのは変えようもないことだ。しかしそれだけで未だ男性側に権力が偏り、権力に従属することを善しとされ、仕事内容に関わらず見た目を観賞される。理不尽な足枷だ。男性にだって身体が弱い人もいれば、そうでなくても病気で働けなくなる人もいるのに。
逆に男性は強くあることを求められ、少なくとも女性の上に立つことで強いと言われる。男性の中でもトップに立つべく競争することを強いられ、強い権力を得るほど重い責任を背負う代わりに自由に振る舞うことができる。上に立つことが強いことだからと、こじらせて他人を謎の上から目線でジャッジする男性も少なくない。

早い話、今の世の中は「女」は弱く「男」は強く在らねばならない構造に仕上がっているのだ。ここから脱したい人は性別問わず少なくないはずだ。
ただ、己が背負うものの重さへの感覚が麻痺してひたすらに権力を握っていたい「男」が一定数いるからこの構造がなかなか変わらない。企業のトップどころか国のトップ層にこういう人が多いから、今のところはよほど変わりようがない。恨めしい。

自分の話に戻ろう。性自認には多少の迷いがある。性別は「自分」と自称していて、ただの「人間」でありたいというところはブレない。
迷うのはここからで、強いて性別を括るなら「ノンバイナリー」が最もしっくりくるように思う。でも、だとしたら、わざわざ仕事で男性用制服を着用させてもらったり、女性用のスペースを利用する時に周囲への罪悪感や自らに嘘をつくような不快感を覚えたりする必要はあろうか。だから少なくとも、性別を男女二元論でしか考えられない人相手には『「男」か「女」かどちらかの扱いを選べと言われたら「男」扱いされたい』と日頃から言ってきた。ジェンダー的には男性的である方が何かとしっくりくるのは事実だから。
だがふと気づいてしまった。自分にとってのこの発言は、「女」扱いより「男」扱いの方がしっくりくるというそのままの意味よりも、「男」扱いされる方がより「人間」扱いに近い扱いを受けられると潜在的に気づいていたゆえの発言かもしれないと。性自認に多少の迷いがあるというのはここがどちらであるのかという点であるが、まあ悩むに足らない問題なので答えを探そうとは思わない。

ともかく気づいてしまったことは、
「男」≒「人間」≠「女」
であること。
悲しいかな、これが現状だ。

自分はただの「人間」でいたいだけ。
足枷をはめられて力を奪われる従属物になるのでもなく、足枷をはめられた人の分まで重荷を背負い潰れるのでもなく。ただみんなで特定の属性の人にはめられた足枷をとっぱらって、特定の属性の人ばかりが背負う荷物を分け合いたいだけ。そしたらみんなで軽くなれる。自分はその中の「人間」でいたいだけ。

自分はただの「人間」でいたいだけ。
それだけを叶えるのが、あまりにも難しい。


#創作大賞2023 #エッセイ部門

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