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絶対浮気しない男 第1話

#創作大賞2024 #恋愛小説部門

あらすじ

高校生のあきらは、母の苦労を見て誠実な恋愛を誓う。彼女の葵との仲は順調だったが、美少女の転校生・沙織に心惹かれ、浮気をしてしまう。まどかにも告白されるが、あきらは沙織と関係を持ち、二人の想いを踏みにじった。周囲にバレて絶望するが、10年後の同窓会で沙織と再会し、結婚。最期まで「絶対浮気しない男」の生き方を貫いた。若気の至りを乗り越え、真摯に生きた男の物語。

第1話『絶対浮気しない男の誕生』

「絶対に浮気なんてしない!」 高校一年生のあきらは、親友のいおりにそう言い放った。 屋上での昼食中、二人の間で恋愛トークが弾んでいたのだ。

「お前、昨日告白したんだろ?葵から」
「ああ、まあな」
「付き合うのか?」
「当たり前だろ。俺は真剣なんだよ」

あきらの豪語に、いおりが冷ややかな視線を向ける。
「お前が真剣とか笑わせるぜ。一週間と持たないよ」
「なんでだよ!」
「三日坊主なのお前の性分知ってるからな」
「恋愛だけは本気だっての!」

力説するあきらに、いおりは呆れ顔だ。 あきらの性格を知り尽くしている彼には、どうにもその言葉が軽く聞こえてしまう。

「どうせ葵には飽きて、すぐ他の女に手ぇ出すんだろ?」
「んなわけねーだろ!俺は絶対に浮気なんてしない!」

友人からの挑発に、あきらは思わず声を荒げていた。 その瞬間、強烈な既視感に襲われる。

(この会話、昔にもあったな...)

遠い記憶の片隅で、同じようなやり取りを交わしたことを思い出す。

あの日から、もう十年近く経っているというのに。 あの頃の自分を思い出し、あきらは自嘲気味に笑みを浮かべるのだった。

物心ついた頃から、あきらの家庭には父親の存在がなかった。 母子家庭で育ったあきらは、父というものに憧れを抱いていた。

学校から帰ると、いつもリビングのソファに母が倒れこんでいる。 疲労の色が隈のように目元に滲んでいるのに、あきらに気づくなり無理に笑顔を作ってくれる。

「おかえりなさい、あきら。今日も一日頑張ったわね」
「ただいま、お母さん。仕事大変だったでしょ」
「ううん、あきらの笑顔見れたから疲れなんて吹っ飛んだわ」

そう言って母が労わるたび、あきらの胸が痛んだ。 母は彼のためにと、必死に働いてくれている。 けれど、父親がいたらこんなに無理をしなくて済むはずなのだ。

「お父さんは何で家にいないの?」
幼いあきらが問うと、母の顔が寂しげに曇った。

「お父さんはねえ、遠くに行ってしまったの」
「どうして?僕たちのこと嫌いになったから?」
「そうじゃないのよ。ただ事情があって...」

言葉を濁す母を見て、あきらは察することしかできなかった。 母は父のことを今でも愛しているが、父には家族より大切なことがあったのだと。

「浮気したのよ、お父さんは」

成長して真相を聞かされた時、あきらは愕然とした。

「お母さんを裏切って、他の女性と一緒になったの」
「信じられない...なんでだよ!」
「人の心は複雑なものなのよ」

悲しげに微笑む母の姿に、あきらは激しい憎悪を覚えた。 自分たちを捨てて出て行った父親へと。 そして、母の心を引き裂いた女へと。

(絶対許せない...)

あきらは拳を握りしめる。 大事な人を裏切る奴なんて男じゃない、最低だ。 自分は絶対にそんな卑怯な真似はしないと心に固く誓うのだった。


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