絶対浮気しない男 第5話 苦悩の日々

#創作大賞2024 #恋愛小説部門

「ねえあきら、私とどこかデートしない?」
「あきら君、体育祭の組み体操一緒に出よう!」

葵と付き合い始めてから一週間。他の女子から次々と誘いが来るようになった。 まるで人気者になった気分だ。

だがあきらは、そのたびに硬い表情で断るのだった。

「悪いけど葵とデートの約束があるんだ」
「体育祭は葵と二人三脚出るから」

あくまで葵を最優先にする姿勢を見せるあきら。 周りからは『いい彼氏』と評判になり、葵も上機嫌だった。

「あきらって優しいのね。私の束縛に耐えてくれて」
「当然だろ。俺は絶対に浮気なんてしないんだから」

葵に褒められ、あきらは自信をつけていく。 これなら自分でも、一途な恋人でいられるはずだ。

けれど心のどこかでは、沙織への想いがくすぶり続けていた。 彼女の一挙手一投足が、やけに目につくのだ。

「ああ、沙織ってば新体操部に入ったんだって。なんて器用なの」
「沙織が英語のスピーチコンテストで優勝したらしいぜ」

友人たちの会話を耳にするたび、あきらの胸がざわめく。 気になって仕方がない。 放課後になると沙織の姿を探してしまう。

(ダメだ...俺には葵がいるのに...)

自分の心の揺らぎを、あきらは必死で抑え込む。 けれどそれでも、沙織への想いは日増しに募っていく一方だった。

「最近あきらってさ、なんだか疲れてない?」

ある日の下校時、葵が心配そうに尋ねてくる。

「え?別に平気だけど」
「ううん、なんだか心ここにあらずって感じ。私との時間、退屈だったりする?」

葵の不安げな表情を見て、あきらは慌てて首を振った。

「そんなことないよ。葵となら毎日だって一緒にいたいくらいだ」
そう言葉を重ねても、葵の不安は拭えないようだ。

無理もない。最近のあきらは、デートの最中でも上の空なのだ。 沙織のことを考えては、自分を戒める。その繰り返しだった。

(俺は最低だ...こんなんじゃ絶対浮気しない男なんて言えない)

理想の彼氏像からほど遠い自分に、あきらは落ち込んでいく。 葵を心から愛せない。けれど沙織を想うのも間違っている。

板挟みになった気持ちを、誰にも打ち明けられずにいた。 このまま沙織への想いを封印し続ければいいのか。 それとも、葵との関係を清算すべきなのか。

右往左往するあきらを見かねて、いおりが助言をくれる。

「お前、沙織のことが好きなんだろ?」
「う、うん...かもしれない」
「だったら葵と別れるべきだと思うぜ」

衝撃の提案に、あきらは息を呑む。

「そんなの無理だよ!葵を振るなんて!」
「でもこのまま葵を騙し続けるのは良くないだろ。男らしく決断しろよ」

いおりの言葉は正論だ。 けれどあきらには、どうしても葵を手放す勇気が持てなかった。

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