絶対浮気しない男 第6話 沙織の告白
「あきら君、放課後ちょっと話があるんだけど...」
ある日の昼休み、沙織がそっとあきらに話しかけてきた。
「え、俺に?」
「うん...二人きりで話したいの」
級友たちのヒソヒソ声が響く中、沙織の瞳は真剣そのものだ。 あきらは戸惑いながらも、放課後の中庭に沙織を呼び出した。
「で、なんの話?」
「あきら君は葵さんと付き合ってるよね」
いきなりの質問に、あきらが固まる。
「う、うん。まあ、そうだけど」
「別れてほしいの」
「は?」
唐突な言葉に、あきらは目を丸くする。
「私、あきら君のこと好きなの。葵さんと別れて、私と付き合ってほしい」
真っ直ぐな瞳で告げる沙織。
その凛とした表情に、あきらの鼓動が早鐘を打つ。
(俺のことを、好きだって...?)
信じられない光景に、あきらは言葉を失う。
けれど心の奥底で疼くのは、紛れもない喜びだった。
「悪いけど...俺、葵とは別れられないんだ」
それでも正義感が、素直な想いを封じ込めてしまう。
「どうして?私じゃダメなの?」
「沙織は素敵な女の子だけど、俺には葵がいるから」
「嘘よ。あきら君だって私のこと好きなくせに」
見透かすような沙織の言葉に、あきらは息を呑んだ。
バレていたのだ。自分の揺らぐ想いに、沙織は気づいていた。
「葵さんを傷つけたくないんでしょ。優しいのね、あきら君は」
そう言って沙織は寂しげに微笑む。
「だけど、自分の気持ちにも正直になって。私と向き合ってよ」
優しく諭すような口調。 その言葉にあきらの理性が、音を立てて崩れ去った。
「ごめん、葵...俺、沙織が好きなんだ...!」
こみ上げる想いを言葉にした瞬間、あきらの中で何かが吹っ切れる。
抑え続けた沙織への恋心。 それを認めた今、もう葵を騙し続けるわけにはいかない。 潔く身を引くことこそ、男のとるべき道だ。
「沙織...俺、葵と別れるよ。そして改めてお前に告白する」
「あきら君...!」
感極まった様子の沙織を抱きしめながら、あきらは静かに誓った。
「聞いたよ、葵と別れたんだって?」
翌日、いおりが驚いた顔で話しかけてくる。
「ああ、そうなんだ」
「で、沙織と付き合い始めたって本当かよ?」
「うん。俺、沙織のことが好きだったんだ」
恥ずかしそうに告白するあきら。 その照れくさそうな表情を見て、いおりは思わず吹き出した。
「お前、ついに本気になったんだな!」
「うるさいな...でも、そうかもしれない」
「沙織のためなら、絶対浮気しないんだろ?」
「当然だ。俺は一途に沙織を愛し続けるつもりだからな」
きっぱりと宣言するあきら。 その瞳には、揺るぎない決意の光が宿っている。
いおりは嬉しそうに微笑み、あきらの肩を叩いた。
「応援してるぜ、親友」
「ありがとな」
固い握手を交わし合う二人。 あきらの恋を見守ってきたいおりも、これからは全力で後押ししようと心に誓う。
放課後、校門までの道を歩きながら、あきらは安堵の溜息をついた。 葵には本当に申し訳ないことをしてしまった。 けれど、これで自分の気持ちに嘘をつかずに生きていける。
「あきら君、ごめんね。私のワガママで...」
隣を歩く沙織が恐縮そうに言う。
「謝ることないよ。これは俺の決断なんだ」
沙織の手を優しく包み込み、あきらは顔を上げた。
「これからは二人で、ちゃんと恋人らしくやっていこう」
「うん...!」
屈託のない笑顔で頷く沙織。
その笑顔を守るためなら、どんな苦難も乗り越えていけるような気がした。
まだ恋愛経験の浅い自分たち。 けれどその分、一途に想い合える。 きっとこの恋は、二人を大きく成長させてくれるはずだ。
「沙織...大好きだ」
「私もよ、あきら君」
あきらは沙織の手を強く握り返した。 『絶対に浮気しない』。 その誓いを胸に、二人の純愛は動き出す。
若さ故の過ちを乗り越えて、真っ直ぐ前を見据える。 そう、これがあきらの「絶対浮気しない男」としての第一歩だったのだ。
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