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星野維人
2023年7月11日 20:35
祖母が寝たきりになって三カ月がたった。かかりつけの先生が週に一度は往診に来てくれるが、祖母に残された時間はもう長くはないらしい。そのあいだ、食事や着替えやオムツの取り換えまで、祖母の世話はすべて母の仕事だった。父はこういうことは女の人の方が得意だからと、横目で見ているだけでまるで母に任せきりだ。私は口には出さないけれど、そういう父はずるいと思った。私は少しでも役に立ちたくて母を手伝おうとするのだ
2022年7月12日 23:15
数年前に、我が家の愛猫がちょっとした隙に逃げ出し、私と家内はそれこそ焦りまくって家の近所を探し回ったことがありました。たがが猫ではありますが、私たちにとっては大切な家族でした。幸い数日後には見つけることができ、事なきを得たのですが、そのときの私と家内の感じた思いを掌編小説にしてみました。「やっぱりここにもいないわ」 押し入れの中をのぞき込んでいた妻は振り向いて言った。我が家で飼っている
2022年3月20日 19:56
子供の頃、風邪をひいてよく学校を休みました。家で寝ているときに気になるのは勉強のことより仲のいい友達のことです。彼らは今、誰と何をして遊んでいるのか、そればかり気になって落ち着いて寝てなんかいられないのです。自分だけが取り残されてしまって、淋しいような切ないような、布団の中でそんな思いにかられたことを今もはっきり覚えています。 2018年 5月
2022年3月13日 15:01
私は子供の頃、おばあちゃん子でした。あの頃おばあちゃんが言ったことばの何気ない一つひとつが、長い人生を生きてきた経験から悟った重く真実味のあるこどばなのだと今さらながら気づかされます。それはどんな哲学書や思想書にも載っていない、大切な言葉のように今は思えます。 庭先に自転車を止め玄関を入ると、ピアノが奏でるジャズのメロ
2022年2月22日 22:28
少年時代の記憶は私にとって物語の宝庫です。 ある夏の思い出に創作を加えて、こんな物語を書いてみました。「カブト虫がめちゃくちゃ捕れる場所、おまえにだけ教えてやるよ」 僕の耳もとで重大な計画を打ち明けるようにK君は言った。 「そのかわり、誰にも言うなよ。俺とおまえだけの秘密だからな」 「分かった。誰にも言わないよ」 いつになく厳しい