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帯刀令

20XX年日本、か弱き人々が躊躇なき正義に日々怯え続けた。道端、電車内のテロまがいの凶悪犯罪はもはや並の防犯措置ではどうする事も出来なかった。政府が出した決断は、国民すべてが「帯刀」する事により自身の身を守る法案であった。無論反対もあったが、国民全員が刀を持つ事による抑止力は犯罪を大きく減らす事になった。この法令を「帯刀令」と定め、首都東京を中心に瞬く間に広まっていった。


今の日本は物騒だ。いや、これが最早当たり前。私が帯刀令によって刀を持ちはじめたのは5年前。当時はやれ無敵の人だの狂人だの凶悪な犯罪者をそう呼ぶのが流行りだった。皆ネットの中だけの話だと思い込んでいたものが、日に日に近づいて、やがて死傷者を出す。要するに、もう守りきれないから自分たちで何とかしてくださいという事だろう。だが、この法令は凄まじい効力を発揮した。帯刀令は何も刀を所持してもなんら問題ないどころか、「人を殺傷しうる事案が発生した場合、自身の身を守る為に事件を引き起こした者を殺傷しても罪には問わない。」というお墨付きまである。わかりやすく言えば、暴力は刀で成敗してもOKというまるで時代劇のような話だ。この法令が出来立ての頃は、電車内でナイフを振り回した男が何人もの刀で斬られた事例があった。そして皆、子供でさえ「守る」という名目で刀を持ちはじめた。不便といえば不便だ。重いし、壁にぶつかるし。だが、たかが1人の暴漢に襲われても周りにいる人間と囲めば楽勝だ。という訳で、帯刀令は日本から傷害事件を無くしたと言っても過言ではないのだ。ニュースで誰かが殺された、傷ついたというのが流れなくなって、朝から憂鬱な気持ちになることはなくなった。さて、今日も平和なニュースを見るとしよう。テレビのスイッチを入れ、砥石を用意する。私は出勤前、刀を研がながらニュースを見るのが習慣化している。どうせ今日も朝から株価だのグルメ特集で穴埋めさ。

「続いてのニュースです。昨日〇〇駅にて殺傷事件が発生しました。犯人の男は拳銃を所持しており、乗客合わせて3人を殺傷したのち一般市民の刀によって死亡したとの事です。日本政府は連日発生している銃による殺人事件の増加を未然に防止すべく『帯銃令』法案を提出を視野に入れているとの事です。」


刀の次は銃か。安全の代わりに、国民の笑顔がまた薄くなっていくな。

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