自分のために働く時限爆弾が、カウントダウンに入った
午後8時50分。
…紫陽花があんなにもあっけなく色褪せてしまったことはこれまであっただろうか。
残酷にも花開く時を待つことなく高気圧に追い立てられるように去った梅雨前線。
そんな梅雨明けを待ち焦がれ、スーツケースを両手に手土産を両脇に抱えながら談笑する
旅行客をよそに、帰路に着く。
家に着いたら10時、落ち着いた頃には10時半を回るだろう。
窓ガラス越しに流れゆくヘッドライトをぼうっと眺めながら、あの言葉が脳裏をよぎる。
毎週土曜日、とある通信教育のグループワークで言われた言葉が胸の奥でつかえている。
あのマリンブルーの澄みきった、太陽の光を受けて万華鏡のように幾重にもきらめく白く眩しい海が広がっているのに。
その海のほんとう美しさを誰かに伝えたいのに、わざわざその場を離れ、醜を以て美を知る行為を行う必要などあるのだろうか。
本音の裏側に潜む偏屈さが顔を覗かせ、
再び空白の振り出しに戻された。
嘘はつくまいと誓いを立てて、朽ちさせた、そんな自分に情けなさがこみ上げてくる。
目の前の仕事でどんな能力を身につけるか、自己成長の為…ここに嘘偽りはない。
会社に評価されようなんて下心はかなぐり捨てた。期待も何もしていない。
“会社で働くことの苦悩”をしばらく味わうことで、少しでも人の苦しみに寄り添えるとばかり思い込んでいた。
その思い込みは果たして本当なのか、
未だ来ぬものに足を捕られていたのか…
…そんなもの思いに更けることもなく、バスは停車場に近づいてゆく。
この命題に向き合うことなく、扉が開く。
時の冷徹さを恨みながら、東の空に密やかに控える明日を見つめた。
この爆弾を止められるのは、私しかいない。
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