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【#こんな学校あったらいいな】にじいろのはねをひろげて

教室の窓に白く大きな雲が飛び込んできた。
わたがしなら、何日ぶんだろうか。

あたたかくぬるい風が、ぼくのほほにあたる。
じっとりとした空気のにおい。
やっとやってきた。
会いたかった。
ずっと待っていた。

校庭の横にある赤色や黄色の花たちへ先生がゴムホースを使い水をあげていた。

キラキラとまぶしい水のシャワーをあびて、花たちはそよ風にゆられてよろこびのダンスをおどっている。

小さな水のつぶは、やがて小さなにじを作った。
じっと見つめていたら、すいこまれそう。

気づけば下校の放送とチャイムがなり、ぼくは、どろだらけの色をしたクツを取り出した。

見上げてみれば、すこしのねずみ色の空。

今年も夏がやってきますように。

空を見上げてお願いをする。
ぼくは学校から小石を家までけりながら帰り道を歩きだした。

空がゴロゴロと、とどろいた。
夏は好き。
でもとつぜんの雨とカミナリは、きらい。

あと、もう少しだったのに。
学校から、いっしょにやってきた小石を道のわきに小さくけって、バイバイとつぶやき、ぼくは家まで走り出した。

「ただいま。」
あいさつは元気よく。
大きな声でドアをあけた。
「おかえり。」
元気な声とえがおが、あらわれた。

家に着くと雨が大さわぎしながら、やってきた。

カミナリまで元気になって、にぎやかになっている。

まちが人が、にぎやかに元気になっている季節が夏だ。
お祭りや花火大会。
たくさんどこかに行けるのもいい。

虫たちも元気な季節が夏だ。
夏にはセミやバッタやカマキリ、トンボたちと虫とりあみを持って戦いをする。


去年のある日の戦いは、虫かごをパンパンにしてぼくの大勝利。
えっへん。
「どうだ、まいったか。」
ぼくが言っても虫たちからは返事は無い。

そうだろう。そうだろう。
何も言い返せない虫たちにぼくは気分が良くなった。

ルンルン気分で、そのまま家に帰ったら、ママがパンパンの虫かごを見て、目を大きくしてビックリしていた。

「お友だちが小さなかごの中で、ギュウギュウでかわいそうよ。」

そう言いながらママが窓をあけると、虫たちのえがおがはじけた。

よろこんで、われさきにと次々とかごから出ようとする。

「虫さんたちはママにちゃんと、ありがとうと言いましょうね。あいさつは大切ですよ。」
ぼくがいつも言われていることを虫たちにおしえてあげた。

お祭りのような、にぎやかさで次々とありがとうを言って虫たちは窓から外に飛び出した。


青い空にうかぶ1つの白い雲が、とてもとても大きくなった。
お日さまもギラギラと大きくなった。
外からは元気な虫たちの大合唱がきこえる。

大好きな夏がやってきた。

「行ってきます。」
元気に声をあげて、ドアをあけて走りだした。

ぼくが通う、学校の裏には大きな林があって、たくさんの虫が生活している。

元気すぎるお日さまも、ここなら木々が光をやわらげてくれて、ひんやりとしている。

虫とりあみと虫かごを持って、林の中をむちゅうになって走りまわった。

どれくらいのあいだ、虫たちと戦っただろうか。
かごの中は今日もパンパン。
かごから虫たちは、ぼくを静かに見つめている。
そんなかごの中をみて、思わずニヤニヤしてしまう。

虫かごを手につかんだまま、ゴロンと草のクッションにねころんだら、なんだか急にねむくなってきた。

やわらかい草のやさしいにおい。
大好きな夏のにおい。


やがて、虫たちの声がきこえてきた。

「ちがうよ。」
「いや、ぜったいにそうだよ。」
「だったら、どうしてここにいるのさ。」

ぼくが、ゆっくりと目をあけたら、
そこは虫たちの学校だった。

「あれ、ここはどこ?」

目の前にはいつも戦っている、バッタやカマキリやトンボやスズムシたちがいる。

みんながぼくを、ふしぎそうにみている。
「どこってここは虫の学校さ。」
カマキリがむねをつきだして、言う。
「きみこそ、みなれないけどだれなんだい。」
バッタが不安そうにぼくにきいた。

「ぼく?ぼくは、、、。」
答えようとすると、虫たち全員が静かにぼくをみた。

「ぼくは、たかし。」
ぼくはちゃんと名前を答えたのに虫たちはお互いにはじめて聞くことばのように目をまるくして、
みんながいっきにザワザワとさわがしくなった。

「きみはにんげんなの?」
トンボが消えてしまいそうな小さい声で目をあわさずに、聞いた。

「うん。ぼくはにんげんだよ。」
ぼくがそう答えたら、虫たちは、さらにすごいさわぎになった。

「はい、静かにしてください。」
そう言いながら、教室にセミの先生がやってきた。

「この子は、今日からしばらくのあいだ、この学校でみんなといっしょに勉強することになりました。」

「みなさん、なかよくしてください。」

ずっと前からそうなっていることがあたりまえだったように、ぼくはあいさつをした。

虫の学校の毎日は、とても楽しかった。
面白いなかまと先生。

ぼくはクラスのにんきものになった。

虫たちは、口々に
「わたしはこんなことがとくい。」
と、おしえてくれる。

バッタはジャンプがとくい。
カマキリは、かくれんぼと手のカマの使い方。
トンボは空の飛びかたをおしえてくれて、
スズムシはキレイなうたごえを毎日きかせてくれた。

毎日が、とてもとても楽しかった。

もっともっとみんなのことが知りたいな。
もっともっとみんなとなかよくなれるかな。


ある日ぼくがくしゃみをすると、遠くのほうからぼくをよぶ声が、きこえた。

先生と虫たちは、この日がくるのをわかっていたように、ぼくにあいさつをした。
目からどんどんなみだが出てきて止まらなくなった。

「もう、帰ったほうがいい。」セミ先生は静かにぼくのかたをなでてくれた。

バイバイまたね。また遊ぼうね。
きっときっと、やくそくだよ。やくそくだよ。


なみだでくっついた目をあけると、あたりは夜になっていた。
少しさむい。
また1つくしゃみがでた。
あんなになかよくしていた虫たちは、もうどこにもいない。

みんなが目の前から、いなくなっちゃった。
くらい林の中で、ぼくはなんだか急に不安で、さびしくなって、そしてこわくなっちゃった。

わんわんと泣いた。
大きな声でわんわんと泣いたんだ。

おとなたちの声と光が近づいてくる。
「ここにいたぞー!」
だれかが大声でさけんだ。

やがておとなが何人もやってきて、ぼくはなみだをうかべたママに抱きしめられた。
「本当に、しんぱいしたのよ。」
ぼくもママもわんわんと泣きつづけた。

ママは、ぼくと手をたいせつにつないで帰った。
家に帰る前、草木の前で立ち止まる。
「すてきなたからものを、みつけたわ。」

目の前には小さな茶色い虫が、木にしっかりと捕まっていた。

そっとその虫を取るとぼくの虫かごに入れた。

その夜。朝の光がまだ窓からおじぎをしないうちにママにおこされた。

茶色い虫の背中が割れて、
中からピカピカのにじいろのはねをしたセミ先生が出てきた。

わぁあと思わず声が出る。

キレイだ。とてもキレイ。
ひとみは、にじいろにすいこまれた。

先生のはねは、しっとりとぬれている。

またあうことができたね。

先生は、ぼくにゆっくりとかたりかけるように、にじいろのはねをかわかした。

どのくらいの時間だったか、ぼくと先生はかたりあった。
「いつかぼくにもにじいろのはねがはえてくるかな。」
「ああ、もちろん。そのためには。」
「そのためには?」
「いつか変身できることを信じるだけさ。」


「そろそろ、空に返してあげましょう。」

ママが窓と虫かごをあけると、先生はぼくにひとつお別れのあいさつをして元気よく外へと飛び出した。

ぼくはいつまでも窓の外をみていた。
窓の外の空もぼくをいつまでもみていた。

あかるくやさしく、お日さまがぼくをつつんだ。
「ありがとう。バイバイまたね。また遊ぼうね。きっときっと、やくそくだよ。」
ぼくは、にじにむかって元気よく声をだした。

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