寺岡政敏

寺岡政敏

最近の記事

散歩と雑学と読書ノート

読書ノート 「街のカフェ」、「町の本屋さん」、「まちライブラリー」 1 はじめに 私が街に出掛けて、最もよく立ち寄る場所は喫茶店(カフェ)と書店(本屋さん)である。そこは私にとって大切な居場所である。さらに、図書館(ライブラリー)と映画館もまた私の大切な居場所であり、若いころは飲み屋さんも大切な居場所だったが、最近は足が遠のいたままである。 今回は喫茶店と本屋さんと図書館という三か所の居場所に関連したことを書かせていただきたいと思う。 私は喫茶店をほとんど読書のため

    • 散歩と雑学と読書ノート

      読書ノート「ヤーコブソン レヴィ=ストロース  往復書簡 1942ー1982」  E・ロワイエ/P・マニグリエ編、みすず書房、2023 本書は20世紀の偉大な言語学者ロマーン・ヤーコブソンと偉大な人類学者クロード・レヴィ=ストロースが1942年にニューヨークで出会い、1982にヤーコブソンが亡くなるまでの間に交わした書簡群を始めて編み、2018年に公刊された著書の邦訳である。 ネット環境のゆきわたった現在では、メールなどで情報は瞬時に伝えられてしまうが、書簡という形式での

      • 散歩と雑学と読書ノート

        精神医学史の中のクレペリン(2) 前回の記事は昨年の12月25日のものである。つづきを書き進めたいと思う。 前回も述べたとおり、中井久夫はフロイトとクレペリンを精神医学における偉大なパラダイム・メーカーと呼んでいる。フロイト(1856ー1939)とクレペリン(1856ー1926)は同じ年の生まれだが、フロイトの神経症中心のパラダイムとクレペリンの精神病中心のパラダイムという二つのパラダイムがはじめから必ずしもうまくかみ合うことなく進行してきたことは精神医学にとって不幸な出

        • 散歩と雑学と読書ノート

          本年もよろしくお願いいたします。 新年早々の能登半島地震には驚かされました。被災にあわれた皆様には心からお見舞い申しあげます。 私は2018年9月6日に千歳の隣町を震源とする北海道胆振東部地震を体験した。震度は6近くであった。さいわい水道は止まらなかったが、3日間停電が続いた。もし地震が冬に起きていたらどうなっていただろうと恐怖を感じたことを思い出す。いまは、電気がなくても使用可能な灯油ストーブと簡易のガス台とガスボンベは用意してあるが、水や食料の備蓄が不十分になっている

        散歩と雑学と読書ノート

          散歩と雑学と読書ノート

          精神医学史の中のクレペリン 1.はじめにーパラダイム・メーカーとしてのクレペリン パラダイムという概念はよく知られているように、トーマス・クーンが「科学革命の構造」という著書の中で提示した概念である。この「科学革命の構造」の新訳が今年(2023年)の6月に青木薫訳でみすず書房より出版された。新訳のなかではクーンを一貫して支持してきた科学哲学者イアン・ハッキングが序説を書いている。岩波の「思想」10月号で新訳をめぐる特集が組まれていて、野家啓一がハッキングの序説の末尾に触れ

          散歩と雑学と読書ノート

          散歩と雑学と読書ノート

          読書ノート1.「日経サイエンス」2023、12 「日経サイエンス,2023 ,12」に「ノーベル賞詳報」という記事が載っている。簡単な紹介と感想を述べておきたい。 また同誌の「量子もつれは何を語るか ベル不等式が問う人間の直感」という記事は興味深く考えさせられるものであった。  ノーベル賞詳報  ● 今年のノーベル生理学・医学賞は、新型コロナウィルス感染症に対する効果的なmRNAワクチンの開発を可能にしたヌクレオシド塩基修飾の発見に対して、米ペンシルベニア大学の、カリ

          散歩と雑学と読書ノート

          散歩と雑学と読書ノート

          「脳のリズム」をめぐる読書ノート 生物が生きている環境は多様なリズムに満ちている。一方生物もまた多様な様相で固有のリズムを形成している。そして生物は環境のリズムを引き込むなどによって環境とリズム的関係をとり結んでいる。たとえば概日リズムに対応する生物時計は人間の場合は特に意識や睡眠リズムや行動や身体機能の様々なありかたに概ね24時間の周期性を与えている。さらに、概日リズムの振動に関与する遺伝子も同定されている。 生物の持つリズムの中では特に脳のリズムは多彩で重要である。脳

          散歩と雑学と読書ノート

          散歩と雑学と読書ノート

          「北の縄文世界と国宝」展をめぐって1.縄文とアイヌとの関係及び縄文とケルトの比較考古学  2021年に「北海道・北東北の縄文遺跡群」がユネスコの世界文化遺産に登録された。それを記念して2023年7月22日から10月1日にかけて北海道博物館で特別展として「北の縄文世界と国宝」展が開催されている。主催は北海道新聞社とNHK札幌放送局である。 私は9月1日に娘の夫と二人で北海道博物館に出かけた。特別展での縄文遺跡の数々は期待通り圧倒的な存在感を発揮して遥かな縄文の世界に私達を

          散歩と雑学と読書ノート

          散歩と雑学と読書ノート

          読書ノート 6月の読書ノートで雑誌について触れたが、今回も雑誌に関連したことを幾つか書かせていただこうと思う。 1.  「世界」(岩波書店)の7月号で「狂騒のChat GPT」と言う特集が組まれていた。その中でナオミ・クラインの「『幻覚を見ている(ハルシネート)』のはAIの機械ではなく、その製作者たちだ」という記事が面白かった。ここでは、記事の始めの項である「幻覚と現実」からその内容の一部を引用しておくことにする。 「幻覚を見る」という単語は、「チャットボットが出力して

          散歩と雑学と読書ノート

          散歩と雑学と読書ノート

          再生可能エネルギー、食糧、半導体と北海道の未来 1.再生可能エネルギーと食料の基地としての北海道の未来 私には、まだ幼い二人の孫がいる。最近になって、孫たちが成人になったころには、この日本はどうなっているだろうと考えることがある。特に私の住む北海道の未来はどうなっているだろうか。 私は北海道の未来に以前から一つの夢を持っている。それは、北海道が日本のエネルギーと食料をささえる基地となっていてほしいという夢である。 私の夢の中では北電さんには申し訳ないが泊原発は必要が

          散歩と雑学と読書ノート

          散歩と雑学と読書ノート

          読書ノート 今回の読書ノートでは、雑誌に関して触れてみたい。 雑誌には、文芸雑誌、総合雑誌、娯楽雑誌、専門雑誌、趣味の雑誌、など様々な種類がある。また雑誌は定期的に刊行されるが、週刊誌、月刊誌、季刊誌などその刊行の時期も様々である。 出版界の不況もあって雑誌の売れ行きが芳しくないと言われ続けている、私の知っている限りでもいくつもの雑誌が廃刊に追い込まれた。しかしまた新たに刊行されるものもみられていて、本屋の店頭は結構な種類の雑誌でにぎわっているように見える。 私も定期的

          散歩と雑学と読書ノート

          散歩と雑学と読書ノート

          今年の3月末から4月の初めにかけて、千歳市で発生した高病原性鳥インフルエンザは3カ所の養鶏所に及び約120万羽の鳥が殺処分された。その数は全道の家鶏の23%になるという。 鳥インフルエンザは渡り鳥から野鳥に広がり、その糞や死骸に直接ないし間接的に接触することで家鶏に感染するとみられている。千歳はシベリアへ向かって飛来していく渡り鳥の通過点に当たっていて来年以降も鳥インフルエンザの発生には注意が必要である。今季は全国で約1700万羽の家鶏が殺処分された。確かワクチンもあるとは

          散歩と雑学と読書ノート

          散歩と雑学と読書ノート

          読書ノート 最近は小説を読む機会が少なかったが、この一か月ほどの間に私は三冊のそれぞれ異なるタイプであるが、いささか重い小説の世界に浸ることができた。 大江健三郎の「万延元年のフットボール」を読み終えて、まもなく村上春樹の6年ぶりの長編小説「街とその不確かな壁」が出版された。 村上春樹のファンである私は早速買っていつものように短時間で一気に読んだ。一気に読まさるところに村上文学の良さと問題点があるかもしれない。今回の作品はこれまでの作品以上に見事な比喩と軽いユーモアを用

          散歩と雑学と読書ノート

          散歩と雑学と読書ノート

          今年の千歳の積雪は思いがけず少なかった。おかげで、散歩のときに雪道で一度も転ばずにすんだ。しかし道内では小樽や倶知安、函館など後志地方を中心に大雪に見舞われたところもあった。それでも、今年の春の訪れは千歳はもちろん全道的に例年よりもずっと早いと報じられている。地球温暖化の影響で発生しやすくなったラニーニャや偏西風の蛇行があたりまえだが北海道の気象にも影響を与えている。これから気象がどう変化するのだろうか。極めて不確かで不安がよぎる。 もう降らないだろうと思っていた雪が3月2

          散歩と雑学と読書ノート

          散歩と雑学と読書ノート

          コミュニケーションと言語の進化をめぐる読書ノート 進化という視点からコミュニケーションと言語の問題を眺めてみることは、 「ひとのこころ」の意味を探り、「その障がい」を考えるうえで極めて有益で重要な方法である。 今回の読書ノートでは私が「ひとのこころ」の意味を探るために参考になると考えてこれまで読んだ進化に関連した本のなかから、四冊を選んで簡単に触れさせていただきたい。 ★ 「21世紀に読む『種の起源』」D・Nレズニック,みすず書房、2015 「コミュニケーションの起源

          散歩と雑学と読書ノート

          散歩と雑学と読書ノート

          私の音楽をめぐる体験 私は例年のようにNHKの紅白歌合戦を見て、新年を迎えた。 あらかじめわかっていたのだが、紅白で歌われる歌やその歌い手の半数近くを私はよく知らない。こうして時代遅れになっていくのだと幾分のさみしさも感じるが同時に若い世代はこのような歌が好きなのだと新鮮さも感じた。 私のような年配者ならよく知っているように、昭和の紅白では、その年に流行して国民の幅広い層によく知られた曲が選択されていた。しかしそれはもう昔のことだ。そもそも全国民が知っている歌というものの

          散歩と雑学と読書ノート