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散歩と雑学と読書ノート


インディアン水車と千歳川

再生可能エネルギー、食糧、半導体と北海道の未来

 
1.再生可能エネルギーと食料の基地としての北海道の未来

私には、まだ幼い二人の孫がいる。最近になって、孫たちが成人になったころには、この日本はどうなっているだろうと考えることがある。特に私の住む北海道の未来はどうなっているだろうか。

私は北海道の未来に以前から一つの夢を持っている。それは、北海道が日本のエネルギーと食料をささえる基地となっていてほしいという夢である。

私の夢の中では北電さんには申し訳ないが泊原発は必要がない。北海道は、太陽光、風力、水流、地熱、バイオマスなど様々な形態の再生可能エネルギー開発の宝庫である。また北海道は農業、酪農、漁業、林業など第一次産業の新たな成長の可能性が日本の中では最も豊かな場所であり、食料自給率を高めるためには最も適した場所である。

私が夢と述べたことは、必ずしも突飛なことではなく、賛同してくれる人も少なくはなさそうな気がするし、政治家の政策の柱の一つになりそうでもある。しかし、夢の実現を現実的に考え始めるとたちまち大きな難題が控えていることに思い至る。何よりも道民の意思がその方向に向かってどれだけ一致できるかが問題である。

しかも、夢の実現に向けて私のできることは残念ながら限りなくゼロに近い。

そのうえ、未来の夢を語る前に現実に起きている出来事が、大きな心配や不安の暗雲を未来に投げかけていることを意識せざるを得ない。

以下に私が心配している暗雲を三点あげておきたい。

第一の暗雲は、先進国の営みが原因で生じている気候危機が世界に深刻な環境の変化を引き起こしながら進行中であるということである。北海道の第一次産業も明らかにその影響を受け始めている。さらにまだ終焉したとは言えない、コロナ禍もこの気候危機と同じく人類の活動が原因で生じたと考えられていて、新たなパンデミックの発生も心配されている。このように、人類が地球の地表や生態系に悪影響を与えている現在の地質時代は人新世と命名されている。

人新世といういい方は、人に対しても他の生き物に対しても生存の脅威を招いているこの時代の変化を必ずしもうまく表現できていないと私は思う。しかし代わりの表現を残念ながら思いつかない。

第二の暗雲は現在進行中のウクライナ戦争がどうなるかである。その行く末はまだ不明であるが、この戦争が世界の人々の生活や心理状態に与える悪影響は計り知れないものがある。日本政府は十分な議論をしないまま大急ぎで軍事費を倍増し、武器を製造輸出できる国にしようとしているのもこの戦争の影響があるからではないかと私は思っている。私はそんな動きに不安を感じながら、孫たちが戦争に巻き込まれることのない未来を切に願っている。

フランスの歴史人口学者で家族人類学者であるエマニュエル・トッドはウクライナ戦争を見据えて、第三次世界大戦はすでに始まっている、この戦争はアメリカの没落に結びつくだろう。「西側」の理念はもはや世界的には少数派になっていると述べている。トッドの意見には反論もあるだろうが、私は考えさせられる意見だと思う。

第三の暗雲は格差と貧困(そして気候危機)を世界的に招いている現在の経済活動がいつ破綻して、世界的な恐慌が生じるかもしれないという不安な状況のことである。

こうした不安材料はしっかり受け止めておくことは必要だが、過剰に恐れていてもいけないだろう。未来に対しては、不安な暗雲を押しのけて、少しでも良い方向に向かうにはどうするべきかを考え、行動することが肝要である。

2.北海道の未来と半導体

私は3月30日付けのnoteの記事でもふれたが、最先端半導体の国内生産を目指すラピダス(東京)が、私の住む北海道千歳市に新工場を建設することを決定し急速に事態が動き始めている。このことは未来に向けての良い材料というべきだろうが今後どうなっていくのか私は大いに気になっている。

すこしラピダスについて述べておきたいと思う。
(以下の内容に関しては北海道新聞の6月26日、6月27日、6月28日、6月29日の記事などを参考にさせていただいた)

初めに半導体とは何かに関して簡単に見ておきたい。

半導体は、金属などの電気を通す導体とゴムなどの絶縁体の中間的な性質、つまり電気の流れを施御する性質を持つ物質で、ゲルマニウムやシリコンが代表的なものである。現在はシリコンが一般的には使用されている。半導体にわずかな不純物を加えると電気が通りやすくなる性質が知られている。

おもな半導体の種類を挙げておくと以下のようになる
パワー半導体……電流・電圧を制御して機械を動かす。送電、電車、生産設 
        備、太陽電池、エアコンなど
アナログ半導体……音や光をデジタル情報に変換。スマートフォン、電子カ
        メラ、イヤフォンなど
メモリ半導体……情報の記憶・保持。USB、記憶装置
マイコン半導体……単純な計算・情報処理。自動車、テレビ、冷蔵庫
ロジック半導体……高度の計算・情報処理、ICチップの微細化がカギとなる。
        電子機器の「頭脳」、自動運転、5G、データセンター

つまり半導体は、パソコン、スマートフォン、テレビ、電子カメラ、冷蔵庫、エアコン、カーナビ、メモリ、自動自動車、ロボット、AI、さらには現代的な武器など実に様々な機器に使用される。「産業の米」と言われるゆえんである。


さて、ラピダスの新工場は今年の9月に着工、2025年の4月に試作ライン稼働の予定で、2027年には量産化を目指している。このことの成否は千歳市や北海道の未来にとってのみならず日本の未来にとっても極めて重要なことになるだろう。

ラピダスは国内の大手企業8社によって作られた新会社である。8社というのは、トヨタ自動車、NTT、ソニーグループ、NEC、ソフトバンク、デンソー、キオクシア、三菱UFJ銀行である。

これまで国内の半導体生産は回路線幅40nm(ナノメートル)程度であるが、ラピダスは2nmの次世代ロジック半導体の量産を目指している。これは1980年代に世界を席巻した「半導体大国・日本」の復活をかけた国家プロジェクトである。アメリカのIBM社と連携し、さらに熊本の菊陽町に半導体工場を建設中の台湾の半導体世界大手TSME社とも連携を深める予定のようである。

ラピダスの小池淳義社長は10年間で5兆円の投資を見込み、中長期的には、太平洋側の苫小牧から千歳や札幌を含めて日本海側の石狩に至る地域に、半導体産業やデータセンター(DC)などを集積させる「北海道バレー構想」を提唱している。北海道にはかってITベンチャーが集積した「サッポロバレー」があった。また今回と類似した構想が、10年ほど前に出されたこともあった。西村経済産業相は、「北海道バレー構想」は半導体産業の集積にとどまらず、デジタル産業の立地へと発展させた構想だとして、国としても最大限の支援を行う姿勢を示している。また経済界もラピダスには強い期待を寄せている。

しかし、ネット上ではさっそく、この半導体をめぐる国家的なプロジェクトが北海道で成功する可能性は難しいだろうという憶測がとんでいる。半導体の製造研究に携わる優れた人材は集まらないだろうし、人材の育成も困難だろうとも言われる。人材育成に向けては北海道大学を中心にすでに動き始めているが、その動きはネット上の冷ややかな意見を払拭できるだろうか。

私はこの国家的なプロジェクトが成功することをもちろん心から願っている。

しかし、私のような素人でも、半導体をめぐるプロジェクトが難しい課題なのだろうと容易に想像はつく。ラピダスが目指す2nmの半導体を製造する技術を本当に現在の日本の技術力で獲得できるだろうか。

もちろん、「北海道バレー構想」が実現できたら確かに素晴らしいことだろう。私が始めに夢として述べたエネルギーと食料の基地と言う北海道の未来を見据えた構想はかすんでしまいそうである。

しかし私は、「北海道バレー構想」と「エネルギ―と食料基地構想」とは必ずしも矛盾するものではなく相反するものでもないということを強調しておきたいと思う。半導体がなければ、太陽光パネルも風力発電もそもそも作動しない。いまや食料生産も半導体抜きには考えられない状況にある。これからの第一次産業はますます科学技術の発展と同調しながら進んでいくことになるだろう。その意味でも「北海道バレー構想」が第一次産業にも有益な幅広いデジタル産業の拠点として、優れた人材を育成しソフト面の構想力を高めてくれることを期待したい。

「北海道の未来がエネルギーと食料の基地となるという構想」はあくまでも私の勝手な夢に過ぎない。それでも私はその夢を「北海道バレー構想」よりも優先して考えている、そしてそうあってほしいものだと勝手に思っている。

ところで当然ながら、工場が建設される千歳市は様々な問題をラピダスと共有することになるだろう。

ここでは一つだけ問題点を挙げておきたい、水質汚染の問題である。半導体の製造には大量の水が必要である。ウィキペディアによると、その過程でたとえば環境汚染や発がん性のある有機フッ素化合物である「PFAS(ピーファス)」が流出する可能性があるという。この物質は土壌に滲出したら無害化することはできず長期間存在することになるもののようだ。大量の水は千歳川から引いて千歳川に有害物質を除去したうえで放流することなどが考えられているようだ、私の知識は不十分なものなので過剰反応は避けなければならないが大丈夫だろうか。工場予定地は千歳の工場団地「千歳美々ワールド」で整地はすでに始まっている。近くに美々川が流れているがこの川はウトナイ湖にそそいでいる。ウトナイ湖はラムサール条約に加盟していて、渡り鳥や野鳥のサンクチュアリである。ラピダスは美々川の水は使用しないと早くから宣言している。ラピダスは始めから環境に注意を払う姿勢を強く打ち出している。

心配のしすぎかもしれないが、工場が出す有害物質はきちんと処理が可能なものだろうか。私は散歩の途中で美しい千歳川の流れを見ながら少し不安になっている。

私はこれからもラピダスを中心にした「北海道バレー構想」を注目していきたいと思う。その発展が環境に注意を払い倫理性の高い平和な産業構想であることを私は願っている。またもちろん再生可能エネルギーと食料の自給に関しても同様に気にかけていきたいと思う。


               ***


2020年 自費出版


「こころの風景、脳の風景―コミュニケーションと認知の精神病理―Ⅰ、Ⅱ」より


「AIの衝撃 人工知能は人類の敵か」 小林雅一 講談社現代新書 2015.3

AI(人工知能)やロボットの現状を知りたいと思い本書を手にした。新書であるが、思いがけず情報量は豊富で、教えられることが多かった。ロボットの中核は、大量の情報(ビックデーター)を収集する幾つかのセンサーとその情報を処理するAIとからなっている。AIの原理を正確に理解する数学的な能力を私は持たないが、著者によると、ベイズ定理に基づいた統計・確率的な計算を再帰的に繰り返し行うことで、ほとんど誤差のない情報を得る方法などが利用されているという。それが可能となったのはコンピューターの計算能力が飛躍的に増大したからである。そのおかげで従来、デジタル処理では不可能と思われていた音声認識や画像認識も可能となり、医学の世界でもそれを取り入れている。現在、ロボット産業の分野では自動運転車の開発に世界中がしのぎを削っている。グーグルも参加していて、もしかするとこの分野でもグーグルが独り勝ちになるかもしれないと著者は警告を発している。我が国では対抗策として、たとえばトヨタとソフトバンクが協力するくらいのことが必要かもしれないと私は思う。
最近のAIは人間の中枢機能を模しているといわれるが、人間の場合は、フォン・ノイマンも述べているように、アナログ処理も利用しているところに一つの違いがありそうだ。また今のところ意味は人間だけが作れるが、ロボットも彼らなりの意味を作るようになるのだろうか。仮に作ったとしてもそれは人間のものとは異なるものになるのではあるまいか。またロボットたちは人間に計り知れない利便性を与えてくれるだろう、しかし同時に労働の機会を奪うことをはじめ、人間社会に予想のつかない災厄をもたらすことになるのかもしれない。そうした警告がいよいよSFから現実の問題となりつつあるようだ。
                    2015年7月

付記
この記事を書いた2015年の時も、私は現在と同様にAIと人間の脳との違いに関心を抱いていた。しかし現在の私の考えや認識が当時とほとんど進展していないことにあらためて忸怩たる思いを抱かざるを得ない。AIの機能はどんどん進展している。特に現在のChatGPTに代表されるAIの大規模言語モデルは脳の働きに肉薄しているように見える。しかし、私は違いの方に注意が向いてしまう。大規模言語モデルが人のように対話できるようになっているというが、人対人の対話そのものがどのように成り立っているにかは必ずしも十分に理解されているわけではない、私はその点をもう少し深く考えてみたいと思っている。またAIの誤作動(記憶に問題があるのだろうか)で生じる現象が幻覚と呼ばれているけれども、精神医学でいう幻覚とに違いがある。AIの機能にも精通している精神科医の解説を私は期待したいと思っている。



 

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