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ワクワクした物語2021 


私は、美術史や技巧的な知識はなんとなくしか頭に無いが、西洋画を見るのが好きだ。地元の美術館では、夏休みシーズンになると素人でも知っているようなビッグネームの画家たちの作品展がやって来ることが多く、そのときは積極的に足を運んだものだ。モネの描く青緑色が綺麗だったな……。

しかし、数年前にあったゴッホ展は行かずに終わってしまった。当時の私は多分、ルネサンス期の滑らかで神聖さがある絵画が一番好きだった頃で、やっと印象派の良さがわかってきたくらい。ゴッホも印象派の括りではあるものの、モネやセザンヌらとは異なるというイメージが強く、まだ素晴らしさを理解できなかったのである。


しかし、今年出版された原田マハさんの本を読み、当時行かなかったことを、というか既に絵画が来てしまったことに歯嚙みした。



その本の名は『リボルバー』である。


(ざっくりしたあらすじ)
フランスの小さなオークション会社に勤める高遠冴は、時にはガラクタとも言われてしまうような誰かにとっての「お宝」を日々扱いつつも、高額絵画との出会いを夢見ていた。そこに突然一人の女性が現れ、茶色い紙袋を差し出してくる。そこに入っていたのは、一丁の錆び付いたリボルバーだった。

重要なテーマとして掲げられているのは、「ゴッホの胸を打ち抜いたのは誰だ?」である。通説は自殺となっているが、本作は史実とフィクションを織り交ぜながら、もう一つの真相とも思える到達点まで運んでくれる。昔から他殺説はあったようだが、それを知らなかった私は新鮮な驚きがあったし、説を知っている方も感動するストーリーだと思った。

本作は現代、依頼者の女性の若き日、そしてゴッホが生きる時代の3パートに分かれている。豊富な感情描写や情景描写、そして正確な史実に基づく描写などにより、それぞれの時代に違和感なく入り込むことができた。特に印象的なのは情景描写。

「刈り入れまえの黄色みを帯びた麦の穂を揺らして風が吹き抜ける。ザーッという音は寄せてくる波の音に似ていた。風は乾いた黄色い海に船の航跡のような道筋を残して吹き去った。」

『リボルバー』73頁。

「オリーブの枝葉は幾千の銀色の蝶となって風の中で乱舞し、夜半の糸杉は黒い塔に姿を変えて月を貫いていた。オーヴェールの野ばらは宵闇をすくい取ったようにひんやりと青白くほころび、風が麦畑のさなかに黄金色の道を切り開いていた。」

同上、205頁。


小説を書く際は自分の足で徹底的に取材をするマハさんなので、音の描写を読んだときなんかは『マハさんもそこで聞いたのかな……』と別の感慨にふけるなどしていた。そのくらい、臨場感に富む描写が随所に散りばめられているのである。


たくさんの取材に加え、前職や日々の経験も大いに投影されているであろう『リボルバー』。読めばきっとゴッホたちの作品に会いたくなるはず……!



(↓メディアパルさんのアドベントカレンダー企画に参加させていただきました。ありがとうございます!)



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