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終わるなレインボーロード、終わるなよ

昨日、寝ていないエピソードをしたためているうちに、昔話を思い出したので今日はそれを書く。

大学生の頃の話。好きだった女の子が家に来ることになった。おもろいDVDがあるっていう、当時の鉄板口実を使ったと思う。
あの頃ってまだサブスクとかがなかったから、おすすめの映画を好きな子に伝えても「あ、じゃあ家で見てみるね」なんて断られることがあまりなかったのだ(ちなみにこれは先日の断られ方である)。

仕事終わりの金曜日、晩御飯はピザでもとろうということになり、かっこつけてLサイズを購入しておいた。味はクォーターでちょっとずつ色んな種類を食べたいであろう女性の嗜好に配慮も万全。
今日の勝利は近づいている。

ただまあ、映画2時間見てピザでも食ってたらあっという間に夜も更けだしまして。近づいてくる終電の時間。
ここまで1秒も彼女に触れていない私は、何とかならないか、このまま彼女を電車で返していいのか、と小さい脳みそをフル回転させていた。

そしたら彼女がテレビの横にあるニンテンドー64を見つけて、「あ!私マリオカートめっちゃ強いよ!」なんて言ってくれて。

僥倖。終電間際のマリオカート強い申告は、「終電逃しますよ宣言」なわけよ。

義務教育で習ったと思うが、この場合は「電車じゃなくてカートに乗りますよ。そのあとはどうぞ私にも乗りこなしてくださいね。」っていう意味が含まれていると考えてよい。
脳内にスターのBGMが流れ出した私は、冷静にマリオカート64のカセットをフーフーし、ゲームのスイッチを入れた。

ところが彼女はまあまあガチで上手くてそれなりに実力が拮抗する結果となり、私も彼女も負けず嫌いなためそのまま5時間くらいマリオカートをやり続けた。
私の股間のコウラも最初は期待に胸を膨らませて赤コウラ3連状態だったが、いつの間にか単なるバナナ1本(直喩)となっていた。私が使っていたのはキノピオで、サブリミナル的に性を彼女ににおわせようとした計画もいつの間にか消え失せていた。

白熱した二人の勝負は永遠とも感じられるほど続き、グランプリしたり二人だけのレースしたりバトルしたり、その日まで培ってきたマリカスキルを互いに全力で注ぎこんだ。

気が付けば窓の外は外は青く光っていた。始発の時間がやってきたのだ。
彼女は一言「そろそろ帰るね」と言った。

一体私は何をしていたのか。
好きな女の子を家に呼んで、終電まで逃してくれたこの状況で、マリカ?
バカだ。何をしているんだ。
急にその状況に焦った私は「最後に1回だけ」と別れる前にヤラせてほしいとねだるクズ男のようにせがんだ。

選んだコースはレインボーロード。少しでも一緒にいられるように、一番長いコースにした。

3周したら終わってしまう。ゴールをしてしまったらもうサヨナラだ。
永遠にこの時間が続いてほしくて、私は何度も何度もコースの外に飛び出した。そのたびにジュゲムが私のキノピオを釣り上げてコースに戻す。

「なにやってんの」と彼女は笑いながらひたすら走り続けた。
私も笑いながら何度もコース外へ飛び出した。

画面の中の虹色が夢と現実の狭間のようで、好きな人と6畳一間、夜が更けていったあの時間とキノピオの「Oh~」という声は、今でもすぐに思い出せる。だがしかし、いつまでも続くと思っていたあのレインボーロードがいつどのように終わったのかだけが思い出せない。

ただ一つだけ言えるのは、10年以上経った今でも私の中ではあの日を超えるマリオカートはない。

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